第2話部室と登場人物紹介その壱。実況はもちろん原です。
どこにでもいる普通の山田は、部屋の前で立ち尽くしていました。
そこにあるフォースを敏感に感じたのでしょう。このまま無事に扉を開ける事が出来るかどうか、そんなちんけなことを迷っていたに違いありません。べっとりとドアノブに手汗が付くほど汗をかき、乾いたつばを飲み干す山田。でも、ついに山田はその次元の扉を開けました。
でも、そこで普通の山田は、普通でないものを見てしまう。
――立ち去るか?
一瞬、山田はそう思ってしまいました。
そう、普通の山田にとって、普通でないものは手に余るのです。ですが、もうひとりの姿を見てしまった以上、放置することはできないと思いました。ただ、これは普通の山田には困難な状況です。これを山田の干からびた脳みそでは処理することはできないのです。
呆然と立ち尽くすその姿は、自らの失投で逆転満塁ホームランを決められた高校球児を思わせます。
「人物設定滅茶苦茶すぎる! っていうか、勝手に人の脳みそを乾燥させないでください。大体、人を扉の前で待たせたのって、原先輩ですよ? 次元の扉じゃない、部室の扉の前! しかも、どれだけ人を待たせたら気が済むんですか? 一人だけ先に入って、『いいって言うまで、入っちゃダメ』って言ったの誰ですか!? それに、しれっと俺のせいで負けた風にいうのやめてくれません?」
あくまでも、卑怯な山田は自分に非がないと言い訳をしました。この行為こそが彼のダークサイドへの入り口だと知らずに。
「いや、明らかに俺、悪くないし! ていうか、中二設定は変わらないんですね!?」
「はい、はい。女の子の部屋に入んねんから、そんな文句を言わへんの。それに、いっつも騒がしいやん。たまには静かに入れへん?」
「部室だよね? ここ。どう見ても、漢医研の部室だよね? 尾田さん、一応言っておくけど、俺も普通に静かに入りたいけど!?」
その醜態を見かねたのでしょう。漢医研の次期部長である尾田美羽ちゃんが助け舟を出しました。ですが、やはり山田はしょせん山田です。
逆切れ山田は部長になれずに、次期副部長になった事の仕返しを、ここぞとばかりに試みてきました。
――積年の逆恨みは恐ろしいものです。山田の逆襲……。山田の普通の逆襲……。
「俺は、ミューツーですか!? いや、それより、さっきの台詞にそんなこと一ミリもなかったですよ? どんだけ部長になりたかったですか、俺!? 第一、積年? 漢医研に入って、俺ってまだ二年ですよ? あと、普通じゃないですよ、逆襲は!」
「美羽ツーとか、人の名前で遊ばんといてや」
「あそんでない! ていうか、あそんでるのは原先輩!」
「まあ、まあ、山田君。ちゃんと中に入ってきて、扉を閉めて文句を言おう。君、近所迷惑だよ。あと、ドアノブについてる手汗は、ちゃんと拭いておいてね」
「上村先輩も、何気にひどい。しかも、居るんなら早く入れてくれてもいいじゃないですか……。しかも、何気に俺が悪いみたいに……」
「ああ、ごめんごめん。ちょっと話がこじれててね。尾田君と意見が食い違ったんだよ」
入ってそうそう先住民に文句を言う侵略者山田。しかも、さっきまで言い争っていた二大勢力を相手に、第三勢力を築き上げる気満々です! 扉は後ろ向きに閉めるのに!
「スルーしますよ、原先輩。二大勢力の争いって、尾田さんと上村先輩の事ですか? いったい、どうし――。いや、いいです。そっちで勝手に盛り上がってください。それより、千歳ちゃんはどうしたの?」
では、すこし状況を説明しておきましょう。
この部室の中央には、四人が座れるテーブルが置いてあります。そこに向かい合って座っている尾田美羽ちゃんと上村博君。その二人が言い争っていると言っているにもかかわらず、意識を小学五年生の千歳ちゃんに向けるロリコン山田。
こんな感じの状況です。
さて、ダークサイドからの侵略者は、彼女の何を侵略するというのでしょうか。まさか、この場では言えないあんなことや、こんなことまで!
「いいかげんにしてくださいよ、原先輩。人を性犯罪者みたいに言うのやめてください。この時間に、千歳ちゃんがいるのが不思議なだけですよ。あと、誰に説明してるんですか?」
「でも、ロリコンは否定せいへんねんな」
「そうですね。山田君はロリコンですから、そこだけは死守してくれて助かります」
「はいはい、外野はうるさいですよ。話が進まないから、俺はロリでもなんでもいいです」
そう言って、八畳近い広さの部室の端にあるベンチに向かうロリコン侵略者山田。いや、侵略する山ロリコン田。
「それ、ロリコンが侵略してるし!」
何でもいいという割には、いちいちうるさい普通のロリコン。
「もはや山田ですらない!?」
それは、普通の山田だから仕方ないです。そもそも話が進まないのは、このロリコンのせいだというのに……。
でも、ここは話を強引に進めましょう。部室説明をしない間に、文字数をかなり使ってしまいました。
そもそもこの部室は、通常の部室が六畳なのに対して、漢方薬の陳列棚の分だけスペースが広め作られています。
だから、そこには漢方薬の原料となる生薬を入れた瓶や本だけでなく、作成に必要な道具も置いてあります。でも、それでもスペース的には余裕があるので、それらを置いている所の反対側には、いわゆるベンチが置いてあります。しかも、漢方薬の原料である生薬を保管するために、冷暖房は他の部室よりいいものが置いてあります。
まさにここは憩いの空間。
どうですか? 山田狩り放題の仮入部は?
「何、狩ってんですか! っていうか、そのビデオまだ回してたんですね!?」
でも、今はその山田を相手している暇はありません。全体で三千文字になってしまう。それだけは避けなければなりません。
「振っておいて、いきなり放置ですか!? ていうか、さっきから謎の言葉が多すぎですよ?」
そんなくつろぎ空間にいる山田は放置しておきます。
でも、それでも放置できない事があります。
そのタイトルはこちら。
『迫る山田の魔の手! 小学五年生の美少女千歳ちゃんに! しかも、彼女はこの部の顧問である草木教授の孫娘であるというのに!』
ひたひたと迫る、性犯罪者山田。ひとたび彼に触れられると、それだけで妊娠してしまうというダークサイドの住人である山田のやらしい手が!
はたして、彼女の貞操は守られるのでしょうか!?
「いや、なんか俺の扱いいつもよりひどくないです!? っていうか、その新歓ビデオ見た人、絶対入部しないでしょ!」
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