かにけん
あきのななぐさ
第1話こちら、漢方医学研究部。実況は原が務めます。
講義棟と研究棟を抜けて、まずは大学の敷地の端を目指して歩いてみましょう。ここは、総合大学の学部でありながら、まるで単科大学のように切り離された場所にあります。というより、最寄りの駅が違いますので、単科大学と言ってもいいかもしれません。
ですので、それほど敷地は広くはありません。むしろ狭いですね。山の上ですし、傾いていますし。だから、本気で歩けば、誰でもその端に行くのに三分もかからない事でしょう。ただし、帰るのは倍の力と時間がかかる事でしょう。あと、気力も?
ここはまさに、他学部から切り離された山の上の孤島。
そんな狭い敷地の端に建つプレハブ小屋がここです。
通称、クラブハウスと呼ばれるその建物には、各クラブの部室が集まっています。一階は運動系の部室がならび、二階には文科系の部室が並んでいます。その二階の一番端にある部屋。その扉には、大きくこう書かれていました。
『来たれ、漢方医学研究部へ』――、と。
そこに用事がなければ、誰も来ないと言っていい場所にあるにもかかわらず、しかも、大体そんなものに興味をひかれる人間がいるとも思えないにもかかわらず、その扉はいつも勧誘に余念がありまえせん。
正直に申しますと、人気のあるクラブは階段に近い所にあります。こう言ってしまえば、大体察しがつくかと思います。
ですが――。
だからと言って、その場所がさびれているわけでもありません。その部屋には、不思議といつも誰かがいました。
いえ、幽霊ではありませんよ? 幽霊部員はいますけどね?
どうです? そんな不思議なクラブに、皆さんも入ってみませんか?
え? とりあえず、今日は見学からですか?
ええ、見学はご自由に。ですがー、ハンコーと、よーいしょーはお忘れなく――。
え? まあ、ちょっとしたおふざけですよ。
それでは、そろそろこのクラブに所属している、二回生に案内してもらいましょう。彼の名前は山田太郎。いわゆるどこにでもいる普通の大学生です。ちなみに名前は偽名です。
「本名ですよ! 悪かったですね、名前が平凡で! というより、ふられるまで黙ってろって言われたから黙ってましたが、色々ツッコミしたかったです! まあ、今更いいですけど……。それより、下田。新歓用のビデオ撮影はいいからさ、早く実習に行ったら? お前ら午後から生化学の実習じゃなかったっけ? ていうか、後半おかしくない?」
「あっ、そうだった。山田と遊んでる場合じゃなかった。じゃあ、あとの事はよろしく! それではみなさん、あとはこの山田が案内しますね!」
「それ、誰に言ってんの? 気味悪いんだけど?」
「将来のかわいい後輩に向けてだよ? こういうのって気持ちが大事だからさ! ちなみに、俺のかわいいは法に触れない上限までだ! じゃあ、俺行くわ!」
そして、下心青年は走り去る。残された山田の身に、これから起こる災厄を知らずに……。
「いや、下田だから……。それと、ナレーションもいいですって、原先輩! それに、しれっと災厄を俺にふりかけないでくださいよ!」
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