焼き尽くす戦車(チャリオット)②
「ガリリュースが宣戦布告だと?」
ケイは部下の男からの報告を聞いて玉座から腰を浮かせたが、ルカに軽く睨みつけられ、小さく咳払いをして座り直す。
「はい。マクスウェルと真っ向からぶつかるつもりの様で」
「信じられん。あのカムラ王が自らマクスウェルに戦争を仕掛けるとは……何か思うところがあるとしか考えられないな。何を考えている……」
ケイは腕を組んで首をひねる。
「我が国はどちらの国とも協定を結んでおりますが……いかがなさいますか」
「どちらの国とも、戦争に関わる協定は結んでおりません。静観すべきかと」
ルカがケイに向かって一礼しながらアドバイスをする。大臣制すら無いこの国において、王を支えるのは常に側近の役割。ルカはこれまで何度もそうやって若き王ケイを支えてきた。
「そうだな……五大国同士の戦争だ。我が国まで関わってしまえば、世界を混乱させかねん。しばらくは手出しをしない事とする」
「かしこまりました。それと、もう一つ……これを」
男は書筒を取り出し、ルカに手渡す。ルカが先に中を改め、軽く眉をひそめた後、ケイ王に手渡す。
──親愛なる我が王
季節も一巡りし、うららかな日が続く今日この頃、王におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
さて、今回筆をとりましたのは他でもない、我が王にお知らせしたい事があっての事でございます。
ルカに一通りの知識技能を与えたため長く暇を頂いておりましたが、このフォギア・ハロルド、間もなく復職したいと考えております。
復職にあたり一つ、土産話を。
異世界人たちの隠れ住む国を、グリンデル王国の近くに見つけました。
かねてより異世界人奴隷開放をお望みの我が王にとって、これは吉報かと存じます。
彼らを我が国の庇護下に置き、五大国と会談して奴隷開放にこぎつけ、彼らをかの国に集めてはいかがでしょうか。
奴隷開放は我が国の悲願。
この発見は、全ての人が笑顔で暮らす世界の実現に一役買うものと存じます。
奴隷開放成功の暁には、未熟な若王という汚名も濯ぐ事ができましょう。
近く、国に戻ります。
お目にかかる日を楽しみにしております
──フォギア・ハロルド
「フォギアからか」
「その様です。ケイ様……」
「待て。後で話す。ルカと、そこのお前」
「はっ」
部下の男は丁寧に敬礼をする。
「二人とも、書斎に来い」
ケイは立ち上がり、玉座の後ろにある扉から書斎へ入る。ルカは部下の男を怪訝な顔で見ながら扉を開き、中へ招き入れた。
「ケイ様、なぜこの者を?」
扉を閉めると、ケイは深いため息をついた。
「まあ、二人に聞いてほしいんだ。さて……フォギアのこの連絡……」
「遊んでますね。間違いなく」
ルカも大きなため息をついた。
「そうだろうな」
ケイはニヤリと笑った。
「そ、そうなんですか?」
部下の男は狼狽えている。
ルカは男を無視して口を開く。
「その文書、素直に読めば奴隷開放のために復職するという話に見えますが……フォギアはおそらく、しばらく異世界人の国で遊んでいたのでしょう。そろそろ飽きてきたからあとは任せる、と言いたい様に思います」
「だろうな」
「しかし、異世界人の国が見つかったのは事実かと。いかがなさいますか」
「グリンデルが知らぬ訳がない。あの国と交渉するのが先だな。俺が直接行こう」
「他の国の情勢を考えると、今、ケイ様が動くのはやや危険な気もしますが……」
ルカは眉間にしわをよせる。
「しかし、今動かねば彼らの国が他国に攻め入られる恐れもある。国境の守りはリードルートの部隊を投入しろ。なんなら、あいつ一人で事足りる」
「しかし……それこそフォギアを動かせば良いものかと……」
「ルカ。フォギアから
若き王は年齢に似合わぬ、鋭い目つきでルカを睨みつけた。
「申し訳ございません。仰る通り……王同士での会談が必要な内容と存じます」
「つまり、どういう事だ」
「フォギアが、ケイ様に代わってここを護る……と」
「そういう事だ。わかったか? フォギア」
ケイは部下の男に微笑みかけた。
「えっ?」
ルカは目を見開いて部下の男を見る。その瞬間、男は白い煙に包まれ、中から深緑の法衣を着た、男とも女ともつかない人物が現れた。
「お見通しでしたか」
フォギアは薄ら笑いを浮かべてケイを見据える。
「バカにするな。お前のイタズラを何度受けたと思っている。そもそも、お前の書簡には詳しい場所が書いていない。直接報告するつもりだったのだろう」
「フフフ……我が王よ。成長なさいましたね」
「じゃあ、改めて報告してもらおうか……その、異世界人の国とやらについて」
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