閑話.蛇に睨まれたカエル状態のアスラン陛下

「で、この責任はどうとるつもりだ?」


「本当に!本当に!!うちの娘が申し訳なかった!!!!」


アルフとクレアに冷めた眼差しで見られて、必死で土下座して謝罪するアスラン陛下とリアンヌ王妃。これが、一子爵家と王族の会話だと誰が思うだろうか?


「父上!?何故そんな一子爵家に必死で頭を!!?」


「いいから!!お前も謝らんか!!!!」


「ぐふぅ!!?」


アスラン陛下は無理矢理アリアンロッテを土下座させる形をとらせる。いつもならアリアンロッテの方が力があるのだが、アルフに許してもらおうと必死なアスラン陛下はこの時妙な馬鹿力を発揮した。


「ね?娘もこうやって必死に謝ってるし……ね?クレアお姉様?」


「とてもそうには見えないのだけれど」


リアンヌ王妃は土下座の体勢でチラチラとクレアを見るが、クレアは笑顔を浮かべてそう言うだけだった。

しかし、自分が孤児だった時から姉と慕っていたから、彼女が今ものすごく怒っているのを理解しているリアンヌ王妃は、ただただひたすらに頭を下げるしかなかった。


「お取り込み中失礼します」


そんなアスラン陛下とリアンヌ王妃に救いの手になる人物がやって来た。それは、自分達の2番目の娘のヴィオラルドだった。


「おぉ!ヴィオラルド!お前も父上や母上に何とか言ってくれないか!?」


アリアンロッテにもヴィオラルドが救いの手だと思いそう声をかけたが、誠に残念ながらアリアンロッテにとってそれは救いではなかった。


「お姉様。今回の件は私も怒ってますの。だから、お姉様はお仕置きです」


「へ……?お仕置き……?」


すると、ヴィオラルドを後ろから2人の青年が現れた。それは、カイン王子とヴァン王子だった。2人はアリアンロッテが今まで見た事がないような冷めた瞳で自分を見てるのに驚いた。


「えっ……カイン……ヴァン……何で……?」


「姉上。噂をちゃんと火消ししなかった自分達にも責任があるとは言え、噂をまるっきり信じて全く調査しなかった姉上を私は軽蔑します」


「なっ!?カイン!!?」


「俺も同じ気持ちだ。姉上」


「ヴァンまで!!?」


まさか2人にこんな事を言われるなんて想像すらしていなかったアリアンロッテはショックで固まる。


「今回の騒動を起こした一件で1週間口を聞かないつもりでしたが……」


「1週間!!?」


「もしも2人が無事に見つからなかった場合、もう姉上を姉と思わないつもりでいますのでお覚悟を」


「俺も同じ意見だ」


2人から衝撃発言を受けたアリアンロッテは……真っ白になって撃沈していた。


「うわあぁ!!?アリアンロッテ様!?しっかりしてください!!?」


「お前ら!!アリアンロッテ様に代わり!あの2人の救助に向かうぞ!!」


『おぉぉぉ〜ーーーーーーーーーー!!!!』


アリアンロッテのお抱え騎士達は急いで2人の捜索に向かった。


「父上。我々も王国騎士を総動員して探索に向かわせましょう」


「そうだな。あいつが妹を危険な目にあわすとは思えないし」


「あっ……あぁ!そうだな!アルフ!これから王国騎士団を率いて捜索活動の指揮をとるから!吉報を待ってくれ!!」


「クレアお姉様も!お待ちくださいませ!!」


そう言って逃げるように王城に向かうアスラン陛下とリアンヌ王妃に、続くように駆け出すカイン王子とヴァン王子。

今、この場にいるのはヴィオラルド王女とアルフとクレア……それに、真っ白な灰になってるアリアンロッテだけだった。


「全く慌てないんですね」


ヴィオラルド王女はニッコリ笑ってアルフにそう聞いた。


「ステインローズ領の地形は大体把握してるからな。2人がどこの川に落ちて、どこに流れ着いたかも見当がついてる。すでに、セバスを向かわせて2人を発見したという報告は入ってる」


アルフはなんて事ない口調でヴィオラルドにそう答えた。ヴィオラルドはそれを聞いて「なるほど」と呟いた。しかし、まだ疑問点がある。


「ならば、何故2人を助けに行かれないのですか?」


アルフは真っ白な灰状態のアリアンロッテを一瞥し


「まぁ、一つはしっかりと第1王女には罰を与えなければいけないと思ったのが1点」


そして、今度は愉快そうに笑ってヴィオラルドを見て


「セバスの報告で2人に何やら面白そうな事が起きてるという報告を受けたからな。あの2人の仲を進展させるにはいい機会だと思って、救助は明日の朝まで待つようにと言っておいた」


「あらあら。そうなんですか」


ヴィオラルドも心の底から楽しそうに笑っていた。

2人の仲が進展するのは、ヴィオラルドにとっても良い話ではあるからだ。


「1週間……口を……もい……姉じゃない……」


そんな2人とは対照的に、アリアンロッテは絶望感に満ち溢れた呟きを漏らし続けていた。

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