偽月譚

 崋山にすむ仙人の伯山甫が「月は何でできている」と他の者に訊くと、

 広成子は「鶏冠石二に蛍石が八」

 彭祖は「鍾山の麓にすむ蜀陰の眼球なり」

 魏伯陽は「月界すなわち幽冥界なればそこにあるもの一切空なり」

 と答え、まとまらない。ならばと老子が月を模造し確かめた。金丹を溶かした葫蘆ひょうたんに月光を溜め、


 九天応似月球声普化閣


 と神仙の秘咒を唱えた。

 途端、菰蘆の口から黄色の球体がぽおと飛び出たかと思えば、瞬く間に月と化した。仙人のひとりが触れると月は弾けた。遠くの都までその破裂音は響き、人々は慌てふためいたと謂う。

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