第13話 EX章「名もない星」
※この話は、メインのストーリーと直接的に関わってはきません。
どこの銀河かもわからない、小さな星。
そこには、まだ発展途上の三つの国があった。
帝都ミシュラン、大都市グラドフィム、聖都マルダーカイ。
三つの国は、対立こそしてはいたが、お互いを監視し合うことで、その平和を大事にしていた。
異変が起こったのは、帝都ミシュランでの出来事だった。
賢者の鉱石。
私たち神の力にも匹敵する謎の物質。
その魔力の塊が、三つの国を大きく揺らがせることになる。
元々採掘量の少なかった賢者の鉱石をめぐり、三つの国は争い、血で血を洗う激しい戦いになった。
その中で、聖都マルダーカイ所属の聖騎士フォルスはこの戦いを鎮圧すべく、密かに動いていた。
彼は心優しく、敵すら逃がすような甘えた性格だったが、その剣の腕は聖都随一であった。
そんな彼は誰にも言っていない秘密があった。
それは、自分が一度死んでからここに来たこと。
世界を賢者の鉱石をめぐる大戦から、救うこと。
これが秘密の理由は、私との約束のためだった。
物静かな砦。彼は聖剣エクスを片手に部隊を率いて静かに進軍していた。
この大戦には裏で暗躍するものがいた。
その名はゼイニス。帝都でいち早く賢者の鉱石を生活や兵器に取り入れた人物。
だが、その開発スピードは異様なものだった。
まるでそれは、元から賢者の鉱石がこの世界に存在することを知っていたかのように。
フォルスは私から受けた高い基礎能力のうち、聴力を使って、中に人の気配が部隊を帝都に潜らせた。
そこから彼らは散開し、おのおのに帝都の重要機関を麻痺させる。
それが今回の作戦。
しかし、フォルスには別の目的があった。
それは私をこの現世に呼び出し、その目で賢者の鉱石を確かめること。
数多の神でさえ知らない物質だったのもあって、私が直々に確かめる必要があった。
世界が滅亡するきっかけに成り得る存在だった場合は、治める神としてそれを消さなくてはならない。
フォルスは誰も見ていないところで、一枚の羽根をその場に落とす。
私の羽。これを道しるべに私は現世に降り立った。
フォルスは死んだときに顔を合わせたっきりではあったが、まだ顔を覚えていたのか、にっこりと笑顔を浮かべた。それが私の見た最期の笑顔だった。
私たちはまるでもぬけの殻のような帝都の内部を進む。
そしてついに、賢者の鉱石を用いた実験が行われている広い場所に辿り着いた。
そこで待ち受けていたのは、思いもしない方だった。
主神ディア。
全ての神々を統べる存在にして、最高神だ。
私は「なぜ、あなたが……」とそれ以上にない言葉を出す。
主神はこう言った。
「失敗だ」と。
その意味を私は理解できなかった。
ただ一つ、推測することはできた。
ここにいること。そして、賢者の鉱石をその手に持っている事。
これから出る答えは、図られたという事実だ。
「お前はこの魅力を世界から抑えることはできなかった」、主神がそこまで言うと、賢者の鉱石を一つ握り潰して見せた。そして、「リセットしなければならない……」と続けざまに片手に力を溜めていく。
その手に現れたのは、聖剣エクスに匹敵する槍、グングニル。
あの一投げで、この世界を全て焼き払うつもりだ。
――やめろおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
フォルスが叫びながら主神に突っ込んでいく。
しかし、ここまで来たのも、ここで主神を見つけたことも、フォルスが主神に襲い掛かろうとも、既に遅すぎた。
主神はグングニルを地面に突き立てる。
すると、みるみる燃えないはずのレンガの床が燃えていった。
これがグングニルの業火。
全てを焼き尽くす炎の槍。
カラン、と聖剣を落とすフォルス。
やっと気づいたようだ。自分の行動は全て神に劣っていたことを。
その燃えていく姿を、私はただ見ている事しかできなかった。
主神に立ち向かう力も、勇気も、私にはなかった。
フォルスはこちらを向く。
あぁフォルスよ。私の最強の戦士。
それが今燃えている。
そして、今にも燃え尽きそうな手で私の頬を撫でた。
「すまない」と、それだけ言った。
私はその言葉が今でも忘れられない。
神に情はないと思っていた。
しかし、それは違ったのだ。
私は人から神になったのだから。
数日経って、名もない星は全て焼けた。
その小さな星を手のひらにそっと置く。
私は失敗した。
またゼロから星を築いて行かなければならない。
だが、その時にはもう、その星を統べる権利が私にはなかった。
主神ディアが代わりの現神を用意していたのだ。
私はやむを得なく、その星を去るしかなかった。
現神である彼は、まず多種多様な種族を生み出した。
そして、その全てに知性を付けさせ、あるルールをくっつけた。
「一つのモノを二人で争う場合、正当な決闘で決着をつけろ」と。
そのルールが広まると、食料を奪うにも彼らは公平な条件で対等に戦いを挑むようになった。
だが、ある問題が起こった。
公平を望まない者が現れたのだ。
彼らは敵種族に奇襲を仕掛けるようになり、私の二の舞になろうとしていた。
私はどこか、二の舞を期待していた。
しかし、その願いも虚しく、彼は新しいルールをこの星に作った。
なんでも、彼が星を留守にしている間に手に入れた決闘方法を、自分なりにアレンジしたものだった。
それが、『フォルスワール』。
札という言霊を込めた紙を用いて勝敗を決める決闘方法。
その導入を、神々は今まで類を見ない星策として、感嘆の声を上げた。
そして、全てがこのルールで決められる世界となった名もなき星は、いつしか賢者の鉱石という未知の物質に発見されることもなく、新たな札の開発、どうすれば勝利をつかむことができるかが示唆されていき、それを娯楽として、もしくは自分の生計を立てる手段として用いられるようになり、世界は今に至る。
ただ、少し変化したところと言えば、全てが全てフォルスワールを用いて決めなくなってきたことだ。
争うことをやめ、お互いを尊重し、生きていく。
現神は、この変化を敢えて放置することで、神々からの信頼をもっと強めていった。
だから私は、あることを提案した。
このままではこの星の生命はゆっくりと資源が枯渇していき、また賢者の鉱石をめぐって私の二の舞を辿る。だったらその前に賢者の鉱石を正しき者に回収させ、私たち神々に献上させようということだ。
しかし、現神はその提案を拒否した。
彼の主張はこうだ。
「彼らがもう賢者の鉱石に手を染めることはない」。
私はそのセリフを覚えている。
星を任されたあの日、私が口にした言葉だ。
現神が拒否するなら、と私の意見に賛同する者はほとんどいなかった。
それからだろうか。
私は自分の星を取り戻そうと思ったのは――。
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