第10話 ある場所での会話

 これは、第一区分街の某所で行われた。会話の一部だ。


「君、どうだった?」


「はっ……マスターカードに阻まれてしまいましたが、だいたいのことは触れた際に調べることができました、彼はいずれにせよまたコロシアムに参加するでしょうから、その時にまた調べればいいかと……以下、資料になります」


「ふむ……なるほどね、わかった、もう下がっていいよ……」


 渡された資料を片手に、男の子は座る。

 かわいい絵だ、と彼はそう思った。

 側近の男が彼に問う。


「よいのですか……異例の転生案件だというのに」


「君、だいぶ慎重なんだね……」


 男の子はクスクスと笑いながら言った。


「僕たちは、ありあまる猶予がある……だからいますぐ事を急ぐ必要もない、それに、彼は直接コロシアムには参加しないと見た、だから我々が手を下す必要ももしかしたらないかもしれない」


「はっ……しかし、だからと言ってコロシアムのルールをあれだけ緩くするのは……それに、コロシアムでの勝敗なくあのような開放は……」


 男の子の、目つきが変わる。


「君は見たはずだよ……負けは決まっているようなものなのに、殺してまで勝ちを奪おうとしたその姿を……あれはデュエルじゃない、決闘だ」


 男の子は座り直して続ける。


「だが、勝ちとはいえ……あの食い繋ぎという伏札はあの2枚だけでライフの永久化ができてしまうからね……禁忌を1とさせていただくよ」


「はっ……そのように改訂させていただきます」


 男はそこまでの内容を頭に入れると、魔法陣を出してどこかにワープしていった。

 残ったのは男の子一人だけ。

 彼が顎に手杖をあてがる頃に、また二人来訪者が現れた。

 一人はさっきの男と同じ黒装束の男、もう一人は鎧を着た男。

 彼は察するようにこう言った。


「あぁ、彼か……君の好きにするといいよ」


「そういうわけにもいかんぜよ……俺はほかの奴らと違って、ここにいる年数が少ないんだ、あんたの意見を聞きたい」


「ふむ……そうか」


 男の子は立ち上がる。

 そして、倒れている鎧の男に言った。


「君も哀れだねー……あの程度の者達にカッとなって、こんな場所に連れてこられるとは、ねぇ」


「くそっ、なんで俺が……」


 彼はゆっくりと首を傾げる。


「君は錯乱しているのかい? ここにきただけでもうわかっているんじゃないかと思ったんだけどなぁ」


 第一区分街にある某所。

 ここに来ることは、どんなに戦績を上げたマスターカードでも不可能だ。

 理由がないからだ。そう、来る理由が。


「君のことは何でも知っているよ、維持費と騙してコロシアムで観戦者からお金を巻き上げていたこと……今までロックフォードの住人が第二区分街ローレルに移動してくることを、恐れていたこと……そして、移動してきた時に環境が変わることを示唆して、貿易権を剥奪したことを」


「なっ……なんでそれを」


「僕はすべてを知る者さ……君たちが何をしようと何をやらかそうと、全てこちらに入ってくる……だがね、慈悲は与えたつもりだよ? なぜなら、そういった行為が行われてきたことに全て目をつぶってきたんだから、だ、け、ど」


 鎧の男の顔に彼は目を近づける。


「君はもう強者じゃない……だいぶずっとコロシアムに居座り続けたし、もういいでしょ? 君の人生……」


「い、いやだ……」


「往生際が悪いなぁ、君は……今まで君は強者だったが、今は違う……もう僕は慈悲を与えない、なぜだかわかる?」


「や、やめてくれ……」


 はぁ、と彼はもう答える力もないことに呆れてしまった。

 そして、吐き捨てるようにこう言った。


「君はもう……やれるだけの禁忌を犯してきたからだよ」


 彼が手をかざすと、鎧の男はどんどんと砕けていく。

 これが禁忌というもの。暴れ回りすぎたマスターカードや札をこの世界から消すという行為。

 だが、これが行使されるのは世界が生まれて初めてのことだ。


「あぁ……ああああああああああああああああああああああああああああああ……」


 パラパラと音を立てて、鎧の男は消えていく。

 その破片はやがて、彼の掌に一つの札として収まった。

 静粛に包まれる。

 彼は隣にいた男の顔を見て、聞いた。


「君は、ここへくるのは初めてだね……受けた名は?」


 彼に向かって男は答える。


「ロストナンバー9のジュノーぜよ」


「そう、覚えておくよ……」


 彼は椅子に座り、手杖をついて楽な体勢をとる。

 ふとジュノーは彼に言った。


「別に、消さなくてもよかったんじゃねぇの?」


「ふむ……そうだね、だけどあいつのコストは1で、いきなり攻撃できちゃうからね、ダメージを受けたマスターカードがいきなり戦意喪失になっちゃうことが多かったのさ……それに、あいつはそれ以外でも悪事を企んでいた……貿易権を剥奪し、ロックフォードから流れてくる札によって、自分が環境から落とされないようにしていたんだ……これは、デュエルを行使する者からすれば相手側が不公平でしょ?」


 わからなくもない、と男は納得する。


「それに……彼のような軽コストでできる動きは、著しく手段を狭める結果になる」


「どうしてそんなことがわかるんだぜよ?」


 彼はニッコリ笑うとこう言った。


「そう聞いたんだよ」









 


 

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