第6話 決闘とデュエル

【        ☆        】


「あいつか……」


 コロシアムの観戦席で、一人の男が佇む。

 彼の名は、控えておこう。

 敢えて称すならこの世界を知る者。

 それが彼にとって、ふさわしい名だ。


「突然封入してきたのを見ると、やはり……」


「どうします? 消しますか……」


「いいや、まだわからない……それをするのは解き放ってからだ」


 男はそう言って、座席の座る。


「ふふ……見飽きたデュエルだけど、楽しめると良いなぁ……」


【       ☆        】


 ずいぶんと人が集まるものだ。

 俺は、コロシアムの観戦席を見上げながら大勢の観客に驚いていた。

 ここまで集まっているのに、歓声一つない。


(あっ……)


 よく見ると、あの街の住人が集団でいる。

 しかもこっちを睨みつけながら、だ。


「ようこそ、神聖なるコロシアムへ」


 周りを見ている間に、いつの間にか一人の男が立っていた。

 ウィズが初めて相手を睨みつける。

 俺にもすぐに察することができた。

 こいつが対戦相手か。


「はじめまして……でもありませんね、小さき炎の魔術師ウィズさん」


「近衛兵のウィニー……気安くフルネームで呼ばないでいただけますか?」


 あの記事の勝利者だ。

 なるほど、貿易権を賭けて戦う相手は鼻っからいつも一緒ってことか。

 ということはもちろん、開催しているのもあっち側。

 街があの状態だからな。そうに違いない。

 だったら、なぜあそこの住人をここに呼ぶ必要があるんだ。


「さて、始めましょうか……」


「ちょっと待ってくれ」


 俺は地べたに飛び降りると、こう言った。


「俺はまぁ、このウィズの付き添い猫なんだが、なんで観客にこっちの住人まで呼んでいるんだ? 見たところ、向こうの街の人は、ここを主催してるとは思えないが……」


「あぁ……なぜロックフォードの住人を招待しているか、ですか……それはですね」


 ウィニーと名乗る鎧の男は、腰の札をシャッフルする。

 そして十分札がきれたところで、答えた。


「ここは誰の物でもないのですよ、ですが、維持費がかかるので資金を出さなくてはなりません……ですので」


 腰のホルダーらしきものに札を戻す。


「賭けてもらっているんですよ……強制的に資金をね」


 そう言ってニヤニヤと笑うウィニー。

 その様子を見て、ウィズが拳を握りしめる。


「どういうことだよ、ウィズ」


「……街の人は、このコロシアムの観戦がある程度の人数まで強制参加なんです、そしてロックフォードの人が賭けるのは、同じロックフォードの住人、つまり私です」


 ウィズはポシェットから出したたった10枚の札をシャッフルし始める。


「ま、積極的にデュエルを持ち掛けてくるのはあなたの方ですからぁ……維持費と同時に多少こちらの街が裕福になるようになっていますよぉ? 小さき炎の魔術師ウィズ、あなたは相当嫌われているでしょうねぇ……」


 そういうこと、か。俺は、ウィズとネル婆さん以外の人間が腐って見えた。 

 と同時に、小さな笑いがこぼれる。

 ウィニーは気づいている様子もなく、大きく叫んだ。


「なぜなら、あなたはもうこの私、『近衛兵のウィニー』に、20戦は負けているのですからねぇ!?」


「今日こそ私が、勝ってみせます……」


 デュエル、開始だ。


「そちらが先行でいいですよ……勝利は私にあるんですから」


 ウィズとウィニーは腰の置き札より、五枚初期手札を取り出す。

 結果は……。


「よし……」


 俺はニヤリと笑った。

 ここさえ押さえればオーケー。

 そしてドロー。この時に引く枚数は0から2枚までのドローが許される。

 ウィズは高らかにこう言った。


「0枚のドローを宣言します!」


「ん?」


 鎧の男が首を傾げる。

 そうだ、その反応だ。

 今までにないだろ、そんな顔したことは。

 次に詠唱。この場面では、戦略札の使用が可能だ。

 この時に使える戦略札に限りはない。

 だが、戦略札にはコストが設定されている。

 今はこちら側の1ターン目。コストは1個分使用できる。

 だが、ウィズの手札にはコスト1の戦略札はない。


「こちらのターンは終了です」


「何もしないんですか?」


 ウィズはコクリと頷いた。

 何もできないことを見て、ウィニーは長い髪をかきあげる。

 呆れているんだろうな。察すのが苦手な俺でもわかる。

 俺だってそうだ。こんな何もできない状況、まったくもってつまらない。

 だが、今はそれでいい。

 ウィニーが腰の置き札に手をかける。


「私は、2枚ドローを宣言する!」


 そうして置き札より2枚引く。


「戦略札を使わせてもらいますよぉ……ふふふ」


 コスト1を消費し、ウィニーの戦略札が発動する。


「弾丸装填!」


 モンスターの持つパラメータを1/0、上昇させる。

 前の1が攻撃力、0が耐久力だ。

 しかし、今ウィニーの場にはモンスターがいない。

 だから必然的に、マスターカードの攻撃力が上がる。


「それでは……行きますよ!」


 ウィニーが何もない場所から短銃を取り出した。

 そして――。


 ドンッと、ウィズに向かって撃った。


「ぐっ……あぁ……」


 撃たれた衝撃で、ウィズはその場に蹲った。


「ウィズッ!」


 マスターカードは、ここではプレイヤーを指す。

 ただ、その役であるからといって戦闘をしないわけではない。

 それぞれのマスターカードに能力、コスト、攻撃力、耐久力が割り振られている。

 主な特徴として、場にいる限り破壊されない、耐久力が0になっても場に残る、持っているコスト(消費した分は数えないものとする)がマスターカードのコストと同じ数、もしくはそれ以上を持っていれば、攻撃ができる。 

 つまり、マスターカード『近衛兵ウィニー』そのコストは、1だ。


「ウィズッ……ウィズッ!」


「だい……じょうぶです」


 なんとか立ち上がり、ドクドクと出る脇腹の血を抑える。

 その姿をみて、ウィニーはやれやれ、と言った表情だ。


「全く……静かに街で過ごしていればいいものを……」


 ウィニーは観客席側を指さした。


「ごらんなさい……あなたを応援する者など一人もいないんですよ、なぜそうまでして戦うのですか? 黒猫くん、あなたもそうです、なぜ止めないのですか?」


「ふざけるな! 与えられた裕福な環境で生きてきたお前に、こいつの辛さがわかってたまるか!」


「おぉ……それは失礼しました、私にはどうやら理解できないもののようですねぇ……これで私のターンは終了です」


「ウィズ、無理するな……なんなら、俺が代わりに……」


 首を振るウィズ。

 はぁはぁと息を荒げるウィズだが、その目は死んではいない。

 心配する必要もなかったようだな。

 ウィズの受けたダメージは2。さて、この数字がどこから引かれるか、というとだ。

 5枚しかない置き札から2枚を手札に加え、そのうちの1枚を任意で捨てる。

 そう、置き札の枚数そのものがライフなのだ。

 これが0枚なる、もしくはそれ以上のダメージを喰らった場合。

 負け、となる。


「さぁ……あなたのターンですよ、小さき炎の魔術師ウィズ……」


 ドローの宣言をする。


「引く枚数は……0枚、です……」


「またですか……遅延もいいとこですよ」


 いよいよか。

 我ながら、こうも早く決着がつくデュエルを見るのは、久しぶりだ。

 ウィズは手札の札を確認してるみたいだが、当然出せるカードはない。


「ターン……終了です」


「はぁ……あなたは一体、ここへ何をしにきたのですか?」


 そうだな。本当に、何をしに来てるんだろうな俺。

 ここにきてまだ2日。ロクなデュエルもしてないのに、こんなとこで一人の少女に命を懸けさせてる。

 ださいこと極まりない。学校に行っていた時と一緒だ。


「お遊びでここにきているんですか?」


 遊びか。そうだな。学校に行っていた時の俺は、ただカードゲームができればいいと思っていた。

 だから構築も環境寄りで、絶対勝てるようにいつも作っていたんだ。

 だけど、世の中はすげぇ。

 ここにいるじゃないか。たった10枚で40枚のデッキを相手にしている奴がよ。


「では、私のターン……この戦略札を使わせていただきますよ!」


 この状況で、俺が応援したくなるのはどっちだよ。


「兵糧略奪!!」


 例の記事で決め手となった戦略札。

 相手の置き札を5枚めくり、自分のものにする札だ。


「さぁ、あなたの置き札は3枚……これでゲームオーバーです」


「……」


 ウィズは黙って残りの置き札を全部引くと、血に濡れた手でウィニーの前まで持っていく。

 終わった――。


「んふふふ……よこしなさい」


 ウィニーは置き札を奪うようにして手に取る。


「ふーん……まぁまぁのカードですねぇ……でも」


 徐に残りの置き札の両端に手をかける。

 そして――。


 ビリッと。


「ふふふふ……あははははは……あははははは!!」


 勝ち誇った顔。満足げな表情。

 その様子を見て、観客は誰一人笑わない。

 見慣れた光景って感じだろうか。


「怒らないでくださいねぇ? あなたが弱いのが悪いんですから」


 得意げにウィニーはそう言った。

 初めてだ。弱いカードを使うから負けるんだってことに関して、俺はずっとその通りだと思ってきたのに、今はどうだ。腹が立ってしかたない。

 だから、ウィズ――。


「すみません……」


「ん? なんです? もうゲームは終わり、退場しなさい」


 俺はニヤリと笑う。

 脇腹に血を流して立っている少女はにっこりとした。


「私、とろいので、このカードの能力を使い忘れていました」


 そうして見せたのは、先ほど破かれるはずだった3枚の内の1枚。


「そ、その札は……」


――伏札、『食い繋ぎ』。


 伏札っていうのは、置き札をダメージでめくるときに、めくったカードが伏札だった場合。

 その効果を保持しているコスト関係なく使えるカード。

 俺の見る限りじゃ、どの伏札も膨大なアドバンテージを取れるものは少ない。

 ゆえにこの食い繋ぎも、ただ捨てたカードを置き札として元に戻すって効果だ。


「使っていいですよね、これ」


「ふ、ふん……何かと思えばさっき捨てた1枚を置き札に戻しただけじゃないですか、そんなものマスターカードである私が攻撃すれば……」


 マスターカード、近衛兵のウィニーの持っているパワーは1/1。

 そう、確かに喰らえばまた0枚になる。

 だがもう、攻撃するだけじゃこっちの手は止められない。


「死ねぇぇ!」


 ウィニーは腰に下げていたソードを勢いよくウィズに振り下ろした。

 ダメージは1。これで置き札は0枚。


「だが……」


 おっと、面白くて口に出してしまった。

 ウィズは置き札を1枚めくり、ウィニーに見せる。


「伏札……食い繋ぎです……」


「な……な、なな……」


 この世界でのデュエルは、確かにアグロがこれでもかというぐらい強い。

 なぜなら、伏札の薄いカウンターでは突破は不可能。さらにダメージ自体がライブラリアウトという相手のトップも手札もそれだけで引っ掻き回せる。

 ましてや置き札の枚数が固定されていないことによって、置き札が多いほど有利っていうのが今の環境だ。

 だが、置き札が少ないことが必ずしも不利ってわけじゃない。

 そして俺の出した回答。

 ループだ。

 こいつは少ない置き札だからこそ確率も準備に要するターンも少なくて済む。


 勝ちだ。あとはウィズの攻撃できるコスト3が溜まり、あいつの置き札を全部削るだけ。


「どうした、ウィニーさんよぉ……信じられないって顔してるぜ」


 正直、俺でもこれをやられた時には、あいつと同じ顔をするだろうな。

 ダメージを受けてもすぐに捨て札を置き札として置ける上に、例えダメージだろうが、ただめくって捨てさせる効果だろうが、めくるという効果に関して発動させることができるこの食い繋ぎは、ダメージという概念を全て否定することができる。

 俺はウィニーに向かって叫んだ。


「もうお前に勝ち目はない! 降参することだ!」


「……ふ、ふふ………あははは……あはははははは!!」


 なんだ、急に笑い出して。


「降参? まだ勝負はついてはいないじゃないですか!」


「馬鹿だなぁ……もうどんなダメージを喰らってもこっちに勝ち目はないって言っただろ!」


「そうですかねぇ……?」


 俺はウィニーの見る方へ振り向いた。

 そこにはウィズがいる。さっき喰らった銃弾と剣の一撃で、ひどく負傷している。

 なんか、おかしい。

 俺たちは、全部封じた。こいつの戦略全てを、否定したはずなんだ。

 なのに、ウィニーはこうもケロッとしていて、ウィズが息を荒げながら今にも倒れそうだ。


「私のターンは終了です……」


「なっ……」


「……っ!」


「ふふ……ふはははは……あーはははははは!!」


 俺たちの作戦は、確かに完璧だった。

 だが、一つ大きな誤算があった。

 こんな勝つことだけに目がくらんだやつが、潔く負けを認めるわけがない。

 こいつ、さっき自分で遅延とか言っておきながら、自分が追い込まれたら関係ないのか。

 どこまでも腐ってやがる。


「私の……ターン……」


「お、おい! ウィズ、もう無理するな! 俺たちは勝ったんだ、もう攻撃する必要なんてない!」


「勝った? どこがですか? ねぇ、観客席の皆さん?」


 誰も、何も言わない。

 まずい。このままじゃウィズが、死んでしまう。

 俺の立てた戦略のせいで、殺される。


「私は……0枚、の……ドローを宣言します」


「そうです、それでいいんですよ……小さき炎の魔術師ウィズ、私の置き札は残り33枚……さぁ、削り切って見せてくださいよぉ!」


「ふざけんな! お前はもう負けだって言ってるだろ!」


「黙れ! これは私とそこのクソガキとの戦いなんですよ! その両者が合意なんですから……もう文句はないでしょう?」


 やめろ……。もうここから先はデュエルじゃない。

 ウィニーも理解できないが、ウィズだってそうだ。

 俺はお前に、もっと遊ぶ方で楽しくデュエルをしてほしくて。

 涙があふれて止まらない。

 また俺は、些細な事で殺すのか。まだ友達にもなっていないのに。


「淳介……」


「……!」


「――っ」


 俺は、そのウィズの言葉でハッとなった。

 音をかき消すほどの豪炎。コロシアムの舞台に影ができるほどの大きな火球。

 これはウィズの戦略札だ。

 コスト3、『炎の魔術 グランメテオ』。

 この札は相手にコストと同等の3のダメージがある隕石をぶつける物。

 しかし、マスターカードが小さき炎の魔術師ウィズである場合、そのダメージは2倍になる。

 ウィズのみに許された専用除去札にして、一番優秀な札だ。

 ウィズは自分の弱みも、強みも、全部知っている。

 俺も、ポシェットからカードをバラまいたときにびっくりした。

 どうせ同じようにアグロをメインとしたデッキなのだろうと思ったからだ。

 だが、蓋を開けてみれば、そのデッキはコントロール。

 こいつは、環境に手を染めずに敢えてコントロールタイプのデッキを握っていた。


「ぎゃぁあああああああああああああ……」


 ウィニーが豪炎に包まれていく。これで残り27枚。

 恐らく、あいつは一度も攻撃を喰らったことがないのだろう。


「少しはウィズの痛みが分かったか、馬鹿野郎!」


「ターン……終……了……」


 なんとか持ちこたえているが、あれだけ大量の血が出ているとなると、あと何分持つだろうか。

 轟々と燃えるウィニー側の炎。煙が晴れてくると、まだそこには火傷だらけのウィニーの姿があった。

 呆然と、している。さすがに大きなダメージを喰らって、まともに動けない状態だろうか。


「よくもぉ……」


 いや、動く。あれだけデカイものを喰らってあいつは動いている。


「よくもぉぉぉぉぉおぉぉおぉぉぉぉぉおぉぉぉ……私のタァーン!」


 1枚の戦略札を掲げる。

 あれはコスト3。


「増援っ!」


 一体の攻撃回数を3回に増やす札。

 だが、マスターカードもしくは場に種族が兵士のモンスターがいれば、その攻撃回数は4回まで行ってもよいものとする。

 まずい。一撃だけでも致命傷なのにそれを4回も喰らったら。


「ぎゃぁははははははははは!」


 笑いながら切りかかるウィニー。


「1つ!」


「ぐぁ……」


 上段から一気に振り下ろす。

 さらに横に2回。そして剣を、ウィズの先ほど撃ち抜いた脇腹に向けて構えた。


「これで、倒れろォ!」


 俺はもう、見ていられなかった。


【     ☆      】


 もうだめだと、そう思いました。

 このまま私は気絶するんだと、そして、淳介の立てた戦略も、全て水の泡になるんだと。

 謝っても許されない。

 ロックフォードのみんな。ネルばあちゃん。

 でも私、頑張りましたよね。

 もう……崩れちゃっても、いいですよね。

 目の前に、ウィニーさんの剣が迫ります。

 私はゆっくり目を閉じました。


 ドスッと、音がしました。


 先ほどから脇腹を打っている苦痛より痛みを感じませんでした。


(痛みも……苦しみ、も?)


 その無痛は、幻ではありませんでした。

 淳介が飛び込み、その勢いで狙いが逸れたのです。


「じゅ、淳介!」


「うあっ……」


「邪魔を……するなぁ!」


 ウィニーさんがソードを横に振りぬく。

 軽々と飛んでいく淳介は、舞台の壁に叩きつけられました。


「淳介……淳介ッ!」


 私はその無残な姿に駆け寄ります。


「そんな……どうして」


「馬鹿野郎……お前のっ……そんな姿見て、助けないやつの方が……おかしいだろ」


 今にも死んでしまいそうな擦れた声でした。

 淳介は、苦痛に耐えている様子でこう述べていきます。


「いいか、ウィズ……この世界は環境に収まるほど狭くはない、デュエルは世界中のどこでもやっている……だけどよぉ……そんなどこでもやっている事だが、なくちゃいけないものがあるんだ……」


「も、もう喋らんでけれ! 死んじまうよぉ!」


 後ろからウィニーが迫る。あと一回、攻撃が残っている。

 それでも、淳介は息を小刻みにしながら続けていきました。


「それはな、『相手』だ……相手がいなくちゃ、デュエルは成り立たないんだ……しかもそれは、友達がふさわしいんだ……むしろ、友達じゃなきゃ喧嘩になることもある……今起こっている、こんな風にな…………だから……だから、よ……」


 その顔は、泣いていました。

 初めて見る、私に対しての涙でした。


「さようならなんて……言うな……俺たちは勝つんだ……その後に、たくさんこんな決闘じゃないほうのデュエルをしよう……だから、さようならなんて言わないでくれ……俺たちはもう……」

 

 そこから先を、彼は言えませんでした。

 そして、ふらりと後ろから剣が頭上に光ります。


「ぎゃぁぁっはぁ!」


 私は背中にソードを一振り、受けました。

 意識が朦朧としていきます。

 あぁ、ついに死ぬんだ。そう思いました。

 正直言って、私は銃弾を喰らったときから、諦めていました。

 あの人は負けを認めない。それは自分の名誉のためなのです。

 だから、例え淳介の作戦通りにいっても、絶対に降参なんてしないと、知っていました。

 なんで高望みしちゃったんだろう。

 それでも降参するんじゃないかって。


「あぁ……そっかぁ……」


 私、決闘していると思ったら、いつの間にかデュエルをしてたんだ。

 楽しいなぁ。淳介の見つけたこのコンボは、とっても好き。

 今まではずっと置き札が少なかったから負けていたのに、あの2枚だけで、まだ私はデュエル上では死んでいない。

 でもどうしよう。もう身体が動かない。

 淳介、ごめんね。あっちへ行ったら、いっぱいいっぱいデュエルしよう。

 その前に……私、どんな顔で会えばいいかな。

 許してくれるかな、こんな私を。


――許してくれるさ、きっとね。


 そうですよね、アフロディーテさま……きっと…………きっ……と……。




























 

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