第7話 だいだんえん

音もなく飛行する博士と助手に両脇を支えられ、かばんは空から目的地へと向かう。


「地図によるとこの崖を下った先にある小山が偽装された

 大規模セルリウム貯蔵庫らしいのです」


「あの小山がそうなのかな? 中腹に黒い小さな池みたいのが見えるけれど、

 あれってもしかして……」


三人は山の中腹に着地し、辺りを調べると山の岩肌からひびの入ったパイプが剥き出しになり、

そこから液体が漏れ出した跡が見つかった。 そしてそれは黒い池へと続いている。

かばんの体はかつてこの黒い池から造られたのだが、その当時の記憶は彼方へと消えた為、

もはや本人がその事を知る由は無い。


「この黒い液体の独特の光沢、セルリウムで間違いなさそうなのです」


「これが漏れ出てきているという事はこの山は本当に……」


期待を膨らませて三人は山頂へと登る。

助手の持つ地図と書類を確認しながら博士が自然の岩肌を模して作られた開口部を特定する。

書類に書かれた複雑な手順でロックを解除すると錆びた音をたてて山頂部分が大きく開いた。

中を覗き込むと黒い液体で満たされた巨大な容器が全貌の掴みきれないほどの数並んでいた。


「すごい、この山全部が…… セルリウムでいっぱいに満たされた巨大貯蔵庫……」


「セルリウムからはフレンズ以外でも何でも作れるはずなのです。

 試してみるのですよ、かばん!」


「何でもって、うーん例えば……砂時計とか?」


容器から小さな黒い塊が飛び出してかばんの掌の上で砂時計に形を変える。


「わわっ すごい…… 本当にできた!」


「もっと大きな物でも思い入れが強いものならば造りやすいはずなのです」


「大きくて思い入れが強い…… それなら、ジャパリバスはどうかな……!」


容器から大きめの黒い塊が飛び出して宙に浮き膨らむと、懐かしい黄色い車体が現れる。

ジャパリバスは山の斜面にどすんと着地すると重力に引かれて斜面を疾走していく。

おおおーと歓声を上げる三人。 魔法のような出来事を目にして興奮が高まっていく。


「次は食べ物などはどうですか? 色々試してみるのですよ」


「それじゃあ、出でよ! ジャパリまん!」


「もぐもぐ。 うう、いまいち美味しくないかも。 味もちゃんとイメージしないと駄目だね」


「でも普通に食べられるのです! これならきっとアレも!」



「待って! こんな楽しい事、続けるならサーバルもいっしょに!

 "サーバルちゃん"を連れて来ようよ!」




  そして、僕の夢のような日々が始まった


かばんは嬉々として黒い液体を宙に舞わせて操る。

黒い塊が円柱上にぐるぐる回ってそれを形作る。


「見て見てサーバルちゃん! メリーゴーラウンドだよ!」

「すっごーい!」


かばんのはしゃぐ様子を見て博士と助手は目を潤ませる。


「助手! 見るのです! かばんがあんなに楽しそうに! サーバルちゃんと! ぐすっ」

「博士! かばんの望みは叶ったのですね! ついに報われたのです。 ううう……」



  サーバルちゃんは相変わらず「すっごーい」連呼しているけど

  今までと違って聞くたびに嬉しくなってくる。

  だって今の僕はほんとにすっごーいんだから!


黒い帯が空中を駆け巡り蛇のように舞い、長い長いコースを造り上げる。


「お次はジェットコースター!」

「すっごーい!」


  楽しい気持ち、わくわくする気持ちが増すごとに操れるセルリウムの量が増えていく

  遠くからえいっと願うだけで貯蔵庫からまるで火山の噴火のように

  セルリウムが噴き出してくる!


高い崖の下にセルリウムの塊が集まり、崖よりもさらに高く積み上げられ

巨大な塊に膨れ上がっていく。


「今度はなんと! ヘリポート付き豪華超巨大ホテルの完成だよ!」

「すごいすごい! すっごーい!」


  そしてそして僕が夢の中で見た、一番造りたかった物はこれ!


巨大な黒い塊がぐるぐると縦に渦巻き、それを形作る。


「できたー! おっきな観覧車!」

「かばんちゃん! すっごーーい!」

「ほらほら、サーバルちゃん! いっしょに乗ろうよ!」


  観覧車から見下ろす景色。 辺りには立派なゆうえんちが出来上がっていた

  あわわっ 隣のゴンドラが落っこちた! こわーい!

  こんな出来事にも何故かわくわくして笑顔になれる

  だって僕の隣にはサーバルちゃんが居るから!

  僕が夢に思い描いた世界が今現実になっている

  今日も明日もいつまでも、大好きなサーバルちゃんといっしょに遊ぼう!


  わーーい  たーーのしーーーー!!

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