齟齬

重苦しい空気が漂う中、ヤマトがスケッチブックを開き鉛筆を滑らせ始めた。そして口を開いたのは由行だった。「崇史君、君のように両親と離れ離れになってしまった子を私はずっと見てきた。でもそんな子達がみんなこの先ずっと不幸な運命だなんて、そんな事は決してないんだよ。」と彼の反応を伺うように言った。


「あ?何が言いたいんだ!うぜぇ!お前らなんか殺そうと思えばいつだって殺せるんだぞ、バカにしやがって!俺が不幸で可哀想なヤツだとでもいいたいのか?お前に何が分かる!何も知らないくせに!」由行の言葉に威嚇するように崇史は噛み付いた。「君の言う通りだ。私は今見たビジョンでしか君の事を知らない。でも君がそうやって私にイライラしながらでもいい、何でもいいんだ。思っていることを私に話してくれたら、私も君の為に何かできることがあると思うんだ」「余計なお世話なんだよ!おまえに話すことなんかねぇ!」と崇史は吐き捨て、机の上にあったペンを手に取ったかと思うとバキッ!と音がし、それを床に投げつけた。


由行は思わず怯んだが「君の両親は君のことを嫌いになって離れたわけじゃない。悩みに悩んで…」

「おまえに何が分かる‼︎ 知ったような口叩きやがって!いい加減なこと言うんじゃねえ‼︎」と崇史が言ったその時、床の上の割れたペンが由行めがけて襲いかかり、彼の左目をガリッ!とかすめて血が涙のように頬を染めていった。


それを見たゆかりは取り乱し「あぁぁ…ぁ、救急車!誰か!早く‼︎」と由行の流れる血を手で拭いながら声を荒げた。

「ゆかり、大丈夫だ、落ち着け」由行は左目に灼けるような痛みを感じたが、崇史の心の痛みを思うと目の痛みの分だけ胸に苦しみが込み上げてきた。


そしてヤマトがスケッチブックを持っておもむろに崇史の前に座った。「お兄ちゃんのパパとママが考えている事、知りたい?」「あ?知りたくねぇよ!どうせ俺の事なんかもう忘れてるんだろ。どうでもいい」と投げやりな態度でヤマトに言った。「お兄ちゃんが考えてるのとは違うよ?これを見て!」と持っていたスケッチブックを崇史のほうへ開いて見せた。


そこに描かれていたものは……


テーブルの上のケーキを挟んで座っている崇史の両親だった。ケーキにはロウソクが12本、皿とフォークは両親の前と、崇史がいつも座っていた椅子の前に置かれていた。そして俺が仔犬を抱いて笑っている写真も…。

崇史がその絵を見た時、自分がまるでその場所に吸い込まれて行くような不思議な感覚に陥った。


俺の誕生日、つい最近だ。

俺がいなくても毎年こうやって俺の誕生日を…⁈「崇史、ごめんね。一緒にいてあげられなくてごめんね」と声が聞こえた。ママが泣いている。(何で泣いてるの…⁈ 何で泣くのママ‼︎)

「俺たちが崇史と向き合う覚悟がなかったばっかりに… 俺は崇史に殺されても崇史の側にいるべきだったのかもしれない」(…何だよ、それ)

「ゃめろ…!ヤメロ-------!!!!」

そう叫ぶと同時に、部屋中の物がカタカタカタッと小刻みに震えた。


「何なんだよ!何でだよ!俺を捨てたんじゃないのかよ!何でお祝いなんか!何で泣くのママ!?」そう叫ぶ崇史の目から涙が滲んでいた。

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