刹那

蓬莱崇史は両親に見離され、西田のところで能力を中和するための処置が試されていた。その効果的な方法は全く確立されておらず、西田による実験が繰り返されていたが、これは崇史を自宅に返す事を目的としたプログラムであり、西田はその為に日々研究を重ねていた。西田の努力により、一時的には能力は制御されるようになったが、ある日数を経過すると元に戻ってしまう、ということを繰り返すにとどまっていた。


だが西田の弛まぬ努力により、脳に与える電気強度と能力制御の期間が比例することが分かり、さらなる実験が何度も行われ27日間の能力制御が可能である、という所まで検証することが出来、帰宅可能な見通しが立った。BDCへ連れて来た当時はまだ6歳で母親の元へ帰りたいと泣きじゃくっていた崇史も、その頃には12歳の春を迎えていた。

「崇史、もうすぐ家に帰れるかもしれないぞ!どうだ、嬉しいか?」と西田は聞いたが、崇史から返ってきた答えは「別に。どっちでもいいや」と素っ気ないものだった。


西田は崇史の両親に、崇史を帰宅させても問題ない状態まで能力は制御可能になったと報告をした。しかし両親は喜ぶどころか、能力を失っていない状態では不安が拭えないからと、崇史の帰宅は受け入れられないという返答だった。西田は崇史にこの事実を伝えるべきか思案したものの、まだ幼い頃から家に帰れるならと実験に黙って耐えてきた崇史と、帰れるかもと言ってしまった自分の発言の手前、全て事実を崇史に伝えることにした。「やっぱ俺は捨てられてたんだな、どうでも良いけど」と彼は寂しげな表情を一瞬見せ、部屋へと戻っていった。そして彼は他人に心を開くことが二度となくなってしまった。


それからというもの、西田とも実験や処置の方向性で衝突することが度々起こるようになった。崇史が常に望んだことは誰にも劣らない能力であり、誰もがひれ伏す絶対的で強靭な力であった。そんな要求をされた西田は彼に従うフリをしながらひき続き能力を中和する処置を続けていた。そんなある日のこと、崇史がいきなり電気刺激のコントローラを奪い取り、自ら出力を最大にしてしまった。


「ゔぁあああーーー」ビクン、ビクンと身体を打ち震わせ、その場で口端から細かな泡を吹いて崇史は気絶した。


しばらくの時間が経ち、崇史は意識を取り戻したが、身動きが取れないでいることに気がついた。彼は拘束衣でベッドに拘束されていたのだ。「やっと気付いたか。おまえは何て事をしでかしてくれたんだ!一歩間違えれば死んでしまってたんだぞ!」西田はベッドの横で腕を組み、心配と怒りが入り混じった感情で彼の目を睨みつけた。

「おまえ!俺を騙してたな‼︎ なんで俺の言う事を聞かないんだよ!」崇史がベッドを揺らしながら怒りをぶつけた。


西田は怒鳴り声を完全に無視して、装置の点検を行なうフリをした。だがその体は既におぞましいほどの恐怖に支配され小刻みに震えていた。崇史に悟られまいと必死に理性で抑えようとしていたのだ。「おい!こっち向けって言ってんだろうがぁ!」崇史の顔に憎しみが宿り感情がコントロールできなくなった時、西田に異変が起きた。


何かに抵抗するかの様に頭は小刻みに震えているが、徐々に左を向き始めた。「崇史、私で最後にするんだ」と言った瞬間、「うるさい!俺に指図するな!」と崇史が怒鳴りぐるりと彼の頭は180°回り絶命した。


ヤマトの能力によって今、研究所にいる全員にこのリアル過ぎるビジョンが見せられた。皆が西田の最後の姿に恐れおののき言葉を失った。しかし、ヤマトと御厨の2人だけは崇史に憐れみの目を向けていた。

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