後悔

崇史は両親に捨てられたと思っていたがそれは違っていた。母を守る為に殺そうとした父親は自分の側にいたいと言っていた。(ママを泣かせたのは僕だったの…?)

「お兄ちゃん、これも見て」とヤマトは止めることなく続けて崇史にビジョンを見せた。


「今日ね、西田さんから連絡があったの… 崇史を帰すことができるって」

「本当か⁈ よかった…!よかったな常世!!」

「でも能力がなくなった訳じゃないって」

「えっ…⁈」

「制御ができるようになったって…!でもそれも崇史の感情が高ぶると抑制しきれないことがあるかもしれないって言うの… 私、崇史と一緒にいたいのに…!でもまた崇史があなたを殺そうとしたらって思うと…!」ママはまた泣いていた。

「ここまで耐えてきたんだ。もう少し西田さんに委ねてみるのはどうかな。あと1年待とう… それで変わらなければ俺たちは崇史を受け入れよう、どうなろうとも」

崇史は目を見開いた。西田からは “今は受け入れられない”と聞かされたのだ。こんな風には聞いていない…!

「何でだよ…!何でちゃんと言ってくれなかったんだよ!西田ぁぁぁーー!!」

崇史は叫びながら大粒の涙を流した。


「こんな力なんか…!俺にこんな力なんかなければ良かったんだ!あの時死ぬのは西田じゃなくて俺なら良かったんだ…!俺が死ねばよかった」崇史は気が抜けたように力無く涙を流しながらそう言った。そこへ御厨が崇史の肩をポンポンと叩いて口を開いた。

「崇史くん… 君は確かに間違いを犯してしまった。人を傷付けたり殺したりすることは絶対に間違っている。でも今、西田に対して心から後悔しているし反省もしている…。もう取り返しはつかない。だが間違いを犯してしまったのなら、それは償わなければならない事なんだ、償いって分かるか?」御厨が彼の目を覗き込むように聞いた。「償い…」崇史がそれ以上の言葉が続かず黙っていると、「悲しんでいる人や苦しんでいる人の気持ちを軽くしてあげる事が償いだと私は思っている。君の仔犬が死んでしまったとき、あの若者が心から自分の間違いを後悔し君が許すまで謝り続け、君に償っていたとしたらどうだったんだろう?」さらにこう付け加えた。「君が仔犬を殺されて苦しみ悲しんだように、彼らが死んでしまった事で君と同じように苦しみ、悲しんでいる人達もいるんだ。そんな風に考えた事はあるかい?」


(…俺と同じ思いをした人が、俺のせいでいる…? 俺はその人に償う?)

「何を…!どうすれば⁈ 俺は何をすればいいんだ…」

「君が今できることをすればいい」と御厨は崇史に言った。

そして御厨は痛みに耐える由行と、心配そうに泣き腫らした目で父親を見るゆかりを目で示した。「いま君に傷付けられて悲しみ、苦しんでいる人がいる。君には何ができるんだね?」崇史はしばらく考えたのち、「今の俺には2人に謝ることしかできない、本当にごめんなさい。」と言うと深々と頭を下げた。するとゆかりから「だからって許せない!でも崇史君が本当に悪いと思ってるのはわかるよ。それに私にも後悔している事はあるの、謝りたくても謝れない過去が…」涙声に変わるゆかりを見てヤマトが心苦しそうな表情を浮かべた。

ゆかりは自らを奮い立たせ「私と同じ気持ちをあなたに感じさせるのも嫌なの!だから一つだけ約束して?あなたの力を自分の為じゃなくて人のために使うって約束して欲しいの」感情の高ぶりを抑えきれず涙で潤んだ声で崇史に訴えた。


「自分の為じゃなくて人のために…」考えた事もない訴えに言葉が続かない。「分からなければ御厨さんについて行きなさい、君の力の使い道をきっと示してくれるはずだから」由行が助け舟を出した。


「それでいいの?」もっと厳しい言葉や所行を強いられる覚悟をしていた崇史に「できるか?」と由行が念押しする。「御厨さん、俺はここにいてもいいんですか…?」と恐る恐る御厨の顔を覗き込んだ。「君が人の為に能力を使いたいと願うなら、それは西田も望んでいたことだ。それが西田への償いにもなる。西田も浮かばれるはずだろう。」御厨は崇史に優しい笑みを向けてそう言った。

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