希望

ゆかりは由行を病院へ連れて行こうと由行の身体を支えつつ、2人は立ち上がった。

「さぁ、行こうか、ヤマト」と由行が声をかけると「僕はここに残るよ、お兄ちゃんと一緒にここにいる。」と崇史の側に立ち、しっかりとした口調でヤマトが答えた。崇史が驚いた顔でヤマトの目を見ると、あるビジョンが見えた。


崇史とヤマトの2人がゲームセンターで遊んでいる。プリクラを撮って目の大きさに笑い合ったり、カーレースゲームで対決したりと楽しい時間を過ごしていたところ、ガラの悪い3人組に囲まれてしまった。

「おう、僕ちゃん達ちょうど良かった!俺らちょっとだけお金が足りねぇんだわ。」そう言われた崇史はヤマトを守るように手で自分の背後に引き込み「そんなの俺らに関係ない、どいてくれ!」と反発した。理不尽な言葉に怒りがこみ上げてくる。「悪いこと言わねぇから金出せよ!」すると崇史の怒りが3人組の一人に向かう…!ところですかさず「これであっちに行ってよ!」とヤマトが財布から一万円札を出して男に渡した。「分かりゃいいんだよ、悪りぃな僕ちゃん♪」そう言って3人組は札をひったくると、その札を目の前でヒラヒラとさせながら2人の横を通り過ぎて行った。


「あんな奴らに金なんか渡す必要なかったんだ!俺に任せておけば3人でも5人でも…」するとヤマトが話を遮り

「お兄ちゃんダメだよ!人の為に力を使うって約束したよね?こんなところで使っちゃダメ!」と崇史に向かって両腕でバツ印を作って見せた。「だからってあんな奴らに…」崇史が不服そうに言いかけたところで、「コレのことでしょ?」とヤマトが財布からお金を取り出して見せた。「これ僕が描いたの、上手いでしょ?」

その一万円札はデザインの精巧ぶりも紙幣の質感も本物そっくりだった。崇史は「すげぇなお前!てか、こんなもんいつ…」と言いかけて「あっ!、知ってたんだな?知ってたから用意してたんだな!何で俺に言わない!俺だって知ってれば力を使ったりしない!」


そこまで見て崇史は気付いた。なぜヤマトが残って俺といると言い出したのか。俺はまた無意識に人を傷つけようとしてしまった。こんなことはもう2度としないとあんなにも誓ったはずなのに…!俺は自分1人では制御できないんだ…。ヤマトなら、未来を先回りできるヤマトなら俺を制御できる。ヤマトがいないと俺はだめだ…。


そのビジョンを見た由行も「そういう事なら連れて行く訳にも行かないな、寂しいけど仕方ない。」と残念そうに言った。別に会おうと思えば此処に来ればいいんだ。ずっと側にはいられなくなるけれど…。

「なぁヤマト、私たちはこれっきりじゃないよな?また会えるんだよな?」二度と会えなくなるような気がして由行はヤマトに聞いた。「大丈夫!2人が同じ思いならまた会えるから」と由行たちにVサインをして見せた。由行はその仕草を見て不安と切なさが一気に押し寄せたが「わかったよ、ヤマト」と言い、「もう迷わないから大丈夫だ」と笑顔で返した。


由行たちが病院に向かって出発すると「さて、我々も行こうか」と御厨が崇史の肩に手をかけた。そして崇史は御厨に付き添われて警察へ出向いたのだ。「自分の言葉で話すんだ、私が付いているから大丈夫。ゆっくりでいい」と御厨は優しく声をかけると、崇史は緊張した表情で頷いた。

研究所の最寄りの警察署は研究所が特殊な存在であることは把握している。御厨の名刺を受け取ると、緊張しながらしどろもどろに話す崇史のことを形式上では対応した。だが仮に崇史の話が事実だとしても法で裁く年齢には当たらず、ましてや現実離れした異能力の話に対応の仕様がないというのが現実だった。それは最初からわかりきっていることだった。


「ちゃんと自分で話せたな、偉いぞ崇史。君は6歳の時罪を犯してしまったね。でもそれは君が仔犬を愛するが故の正義だった。君のお父さんを手にかけようとしたのもお母さんを守ろうとした君の正義だった。6歳の君はただ守りたいものをヒーローのように守っただけだ。でも12歳の今の君ならそれは間違いだったことがわかるね?善悪の区別がつかない子供のうちは法で裁かれることはないんだ。君はもう善悪が理解できる年齢になった。もう2度と此処へ、こんな風に話しをするようになってはいけないよ」

御厨が語りかけると崇史は涙目になって力強く頷いた。




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