正夢
「何だったんだろう、2人とも同じ夢を見るなんて気味が悪い」女は僅かに恐れを感じていた。そしてそんな夜に再び奇妙な夢をみた。
鏡の前で鼻歌交じりにメイクをしていた女に、鏡の中の自分が話しかける。「お前なんか人間じゃない!車に轢かれて死んじゃえ‼︎」
鏡の中の自分は声を出していない。それはわかった。聴覚で聞いたのではない。口元の動きから発せられ脳に直に訴えるような、でもはっきりと鮮明に聞こえるものだった。
そして女は現実で目覚めているともいえない、かといって微睡んでいるほど曖昧でもないという不思議な状態に陥り、ある感情に支配された。「行かなくちゃ」(え?何処へ)「謝りに」(誰に?)と自分の声と心が会話していると思ったら、身体が勝手に動いていく。
女はパジャマのままで靴も履かずに家を出ると涙を流しながら、得体の知れない感情に突き動かされて歩き続けていく。「ごめんなさい、許してください…ごめんなさい、許してください…」その言葉を呪文のように繰り返し続けた。(喉が渇いた…一体どこに行くんだよ?答えろよ!あたしの身体‼︎)身体は構わずにどんどん進んで行くと、その先には何人もの人影が何やら喧嘩しているように見えた。女はその中に飛び込んで行き、男達の輪の中でうずくまる男に覆い被さり言った「ごめんなさい、許してください…ごめんなさい、許してください…」
すると男を取り囲んでフクロにしていた連中の一人が女の髪を掴んで引き上げる。「ちょっと待て!なんだこの女、自分から来やがったぜ。」と言うと男から引き剥がした。髪をひっぱられた痛みで夢から覚めた。
「また変な夢だよ」女が気味悪そうに言うと、嫌な予感がした。おもむろに携帯を取り出すとリダイヤルボタンをタッチして男へ電話をかける。〈プルルルル、プルルルル、プルルルル。〉呼び出し音はするが応答がない!女の予感が現実のような気がしてきて、さっき見た夢を思い出してみる。(あの場所…どこか見覚えがあるんだよな、急げ!考えろあたし!)するといきなりパズルのピースがはまったような感覚になったその瞬間、女はパジャマのまま靴も履かずに家を飛び出すと息も絶え絶えに走り続け、ついにその場所にたどり着く。
「いやぁーーーっ」女は金切り声で叫んだ。
そこには撲殺された酷い状態の男が無造作に転がっており、女は誰が男を殺したのか知っている!いや、誰がやらせたのかを悟った。
すると(まぁだだよ)と言う声が女の内側から聞こえると女の身体は恐怖で震え、その声に逆らおうと試みるが身体が勝手に歩き出す。そして男が死んでいるすぐ傍の草むらをかき分けるとパジャマははだけ、顔は原形をとどめていない自分が転がっていた。(よくもぼくの大切な
女はただただ恐怖におののき
「ごめんなさい、許してください…ごめんなさい、許してください…」と震える声で繰り返した。
(… 許さない)
そう聞こえた瞬間に瀕死だった女の命は尽き、謎の声と会話をしていた女の方は消えた。
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