殺意
翌朝。
BDCから夜通し山道を歩き下って能力者達が研究所にやってきた。連れ去られた研究所の者と、その中にはBDCからやってきた5人の能力者も含まれていた。
「御厨さん、只今戻りました!」研究所組が先に中に入り、御厨に挨拶を交わした。御厨は思わず涙ぐんで「よかった… 無事に帰ってきてくれて本当に…」と各々と抱擁を交わし「さぁ、中に入って休んでくれ」と招き入れた。香椎を除いて研究所の面々が皆無事であったことが、この時の御厨にとってせめてもの救いとなった。
研究所組が中に入ると、BDCからやって来た5人の能力者の1人が御厨の前に立ち「あの役立たずの西田に代わって御厨さん、あんたに能力開発を手伝ってもらう」と鋭い視線を向けた。
御厨はBDCの能力者については警戒はしていたものの、何の挨拶も名乗りもしない、あまりにも不遜な態度にわなわなと身を震わせながらも努めて冷静に言った。「西田が役立たずだと!お前さんは西田がいなければ、自分の居場所すらも作れなかった単なる臆病者じゃないのか?」
「何‼︎」とその能力者が怒りを見せると、ロビーにある柱時計のガラスが割れた。
「ほう、なかなかの能力じゃないか。どうかね?否定された気分は。」御厨は能力を目の当たりにしてもなお、臆することなく続ける。「私が目指している能力開発は、お前さんのような自分勝手に使うためのものではない!ましてや脅したり、傷つけたり、殺したりすることは西田も望んじゃいなかったはずだ。あいつはやり方は間違えど、あいつなりに人助けの為の研究をしていた!だから、お前さんには協力するつもりはない!」
御厨が話し終わると同時に割れたガラスがヒュン!と御厨の左腕に突き刺さった。
「あんたに選択する権利はない!」
自分を否定された彼は、怒りを隠そうともせずそう言い放った。
御厨に突っかかっていったその能力者の名は蓬莱崇史という。蓬莱は物心ついた時から他人とは違う子供だった。この世界では少数派に属す人間は生きにくいように出来ているが、その中でもさらにごく少数の人間だと言えるのが彼だろう。両親が崇史に他の人とは違う能力があると認識したのは崇史が幼稚園の時だった。
崇史が幼稚園に入園した日、両親に小さな柴犬をプレゼントしてもらった。それは両親が「命」を大切にできる人間になってもらいたいと願ってのプレゼントだった。崇史は両親が願った通りに仔犬を大事にしており、それは溺愛といっても良いほどの可愛がりようで、食事の時も寝る時もいつも一緒で幼稚園に行く時など、離れるのがイヤでいつも泣いていたくらいだ。
幼稚園から帰ってくると繋がれている仔犬が可愛そうだと言って母親にリードを外してもらっていた。しかしこの日は自分でやると言ってリードの金具を外した時、自宅前を走るバイクの爆音に驚いた仔犬は、道路に飛び出してしまった。
その瞬間!
その爆音のバイクに仔犬は轢かれてしまった。崇史が駆け寄って行くとバイクに乗っていた男女の会話を耳にする。
「ヤベーよ!なんか轢いちまった‼︎」
すると、後ろに乗っていた女が
「なんだ、犬じゃん!よかったー!うっわグロ!キモッ!無理!勘弁してよ、早く行こ!」と吐き捨て、一瞬崇史の方へ視線を向けるとそのまま走り去って行った。
その一部始終を見た崇史は女の顔をしっかりと脳裏に焼き付けていた…
その顔には明らかな殺意が感じられた。眉間に深く皺を寄せ、眉と目は著しく釣り上がり、への字に口を強く歪ませ歯をギリギリと食い縛るその様はまるで仁王像の如く、幼児の表情とはとても思えないものだった。
数日後。
仔犬を轢き殺した事など忘れていた女は奇妙な夢を見た。バイクで2人乗りをしている男女が交差点に差し掛かった時、左側から一台の乗用車が出てきて激しく衝突した。バイクを運転していた男は一目で絶命していることがわかった。車を運転していた男は車から降りる事もなく、ウインドウを開けてこう言った。
「何だよヤンキーのクソガキかよ!前がへこんじまったじゃんかよ、クソがっ!」そう言った男の顔はあの時の仔犬の顔に見えたような気がした。
あまりに夢見が悪かった事もあり、女が男に電話をかける。すると男も全く同じ夢をを見たと言う。ただ男が見た夢では、死んだのは女のほうだった。
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