香椎の想い

香椎が1人で研究所を飛び出して行ってからというもの、残された4人は研究所にいる他なかった。御厨はサイコキネシスの突然の襲撃に遭い、その能力の前に為す術もなく、そして全てを奪われ絶望していた。そこへヤマトの問いかけにより、西田の暴走は自分のせいだと自責の念に苛まれており、とても香椎を追える状態ではなかった。ゆかり、ヤマト、由行の3名も香椎を追ったところで何か手立てができるはずもなく、命を賭すだけに終わるのが目に見えているという御厨の制止もあり、香椎を信じて託す他はなかった。


そして香椎が炎に包まれた頃、ヤマトはスケッチブックに鉛筆を滑らせていた。

「香椎さん、ちゃんと受け取ったよ」


……………!!!


御厨、ゆかり、由行が同時にヤマトを見た。

そしてヤマトはゆかりに向かって話し出した。


「香椎さんからゆかりさんへ伝えたい事を受け取ったよ。」

「伝えたいこと…?」ゆかりが聞き返すと、ヤマトは続けた。

「香椎さんが西田を許すことが出来ないのは、ゆかりさんを傷つけたからだって。」ヤマトはゆかりに意識を向けて、ゆかりの心に香椎の想いを直接伝えた。


(西田は俺の知ってるゆかりを奪った!ゆかりの感情の全てを…! 無邪気に笑った顔、怒った顔、泣き顔、不安そうな顔…。そんな当たり前にいつも見ていた感情を奪いやがったアイツを絶対許さない…!御厨が自分のせいだと責めようが、ゆかりの意思でそうなってたとしてもそんなのは関係ない!ゆかりから俺の思い出を奪ったアイツは死んでも許さない!俺が死んでも悲しまないで欲しい、俺はゆかりが感情を失くしてからこの日の為だけに生きてきた……)


ゆかりは記憶を辿り香椎亮を思い出していた。高校時代の楽しかった日々と亮の笑顔…。嫌な思い出も辛かった記憶も思い出されたけれど、それでも楽しい思い出と亮の笑顔ばかりが溢れ出てきた。本当に大好きだった。出逢えて良かった。私のせいで別れなければ今頃こんなことには…。

「亮…。ありがとう。私はもう2度と亮を忘れないから」と声に出すと、ゆかりの頬に嬉しさと悲しみが入り混じった大粒の涙がつたった。


その姿を見た由行は、ヤマトが危険な目に遭わされたことでただでさえ気に食わないでいた香椎と娘との関係について、つい言葉が出そうになったが今は静かにゆかりに寄り添おうと全てを飲み込んだ。そして、

「ヤマト、君はあいつの想いを知った上でわざと逆上させるよう仕向けたのか?」とヤマトに聞いた。ヤマトはゆかりに視線を向けたがすぐに俯き「僕には香椎さんの気持ちがわかるから」と言った。

御厨はゆかりの言葉で香椎の最後を悟り、西田に加えて香椎に対する自責の念でさらに自分を追い込み絶望に打ちひしがれ、もう力も言葉もなく崩れ落ちたのだった。



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