BDC
御厨が研究所を設立する前にいたのは
ブレインデベロップメントコーポレーション。略称(BDC)と言う会社だ。代表の西田ノアと御厨は共に大学で脳科学を研究した仲間だった。西田は脳そのものに興味をもっていたのに対し、御厨は脳で作り上げられる心や意識に興味を持っていた。
このときの二人はお互いの特異な知識を認め合いながら足りない部分を補い合う関係だった。そのため二人で行った共同研究の成果は目覚ましいものがあった。しかしある事件をきっかけに二人は修復不可能な関係へと突き進んでいってしまう。
【改良版ロボトミー手術】
昔、頭蓋骨に穴をあけて直接脳の一部を切除する【ロボトミー手術】というものがあったが、危険であることや倫理的問題からその手術自体を禁止された術式である。
西田はそれを改良し、電気刺激によって人間の持つ潜在能力を飛躍的に高める方法を発見して、臨床実験を繰り返していた。その実験段階で藤島ゆかりのように感情の多くを失ってしまう、いわゆる失敗も多く存在していた。西田は大義のための犠牲は止むを得ないと考え、人命や人権を軽視するようになっていった。御厨の研究理念である心や意識というものを踏みにじるだけでなく、人命をも脅かす西田の進め方に、御厨は強い不満を抱いていた。
「お前のやってることは人道に反している! 」と御厨は西田に反意をぶつけた。
「何を言ってるんだ。俺は救いを求める人の為に日々研究をしているんじゃないか」
「お前が人を救うだと?!お前がやってることは犠牲を生み出してるだけじゃないか!」と御厨は迫った。
「この研究が成功すれば脳機能を飛躍的に向上させることができるのはお前もわかってるだろう? 例えば精神疾患を持つ人に対して施術し、原因となる因子の機能を向上させることでその精神状態の改善に導くことができる!こんな素晴らしいことがあるか!」
西田は自分の考えや方向性に間違いはないと確信しており、御厨の声は全く届かなかった。
そんなとき、またも重大な過失を起こしてしまった。西田の何としても早く成果を出したいという探究心が暴走してしまい、まだ実験もしていない強い電気刺激を研究対象者に与えた結果、脳機能の大半を失わせてしまう〈植物人間〉にしてしまったのだった。
「お前は…!!お前というやつは……!!こんな犠牲をまた……!!」
「犠牲ではない、彼は私の研究を理解した上での施術だった。これは彼の献身だ」
御厨は西田を止められなかった自分に強い後悔と罪悪感を抱いた。西田はもはや研究対象者をマウスやモルモットと同等に扱っている、そんな西田の態度に御厨はもう限界だった。
御厨は自ら警察署に赴き、この事件の経緯を詳細に説明した。
一度は事件として取り上げられたが捜査の結果、この件は事故として処理された。
御厨はその後、能力者を引き連れBDCから離れることにした。
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