香椎亮
香椎は車を走らせていた。
すると携帯から着信音が鳴り、ナビの画面が切り替わると電話番号と藤島ゆかりの文字が表示されていた。左手をナビ画面へ伸ばすと中指で通話の表示部分をタッチした。スピーカーからゆかりの声だけが聞こえてきた。
『もしもし、りょう?』とゆかりの声だ。「あぁ、電話するなって言ったろ?」『うん』「それからいい加減もう亮って呼ぶな!」『わかりましたよ、香椎くん!』「もういいだろ?… じゃあ切るぞ」と言い終わると香椎は電話を切った。「もう少し警戒心を持って欲しいもんだね、まあ無理もないか。」と、もう聞こえない相手に言った。
八王子の市街を抜けて山道に入るところにそれはあった。「アカシャ研究所」。
香椎が入り口の扉を開けると目の前には眉間に皺を寄せ腕組みしながら立つ御厨がいた。「あの日に実行するなんて聞いてないぞ!それからヤマト君はどうした?なぜ連れてこないんだ!」と御厨は自分の知らないところで行われた作戦に腹を立てていた。
「敵を欺くにはまず味方から。セオリーですよ!ヤマト君はまだ向こうにいますから。大丈夫です、無事ですってば!」所長の御厨に対してここまで物怖じしない所員も珍しい。
「養護施設の施設長が血相を変えてくる時のことまで知っていたらあんな演技できないでしょう? いやぁ、お見事でしたね!」香椎の遠慮がない態度をまともに相手していたらおかしくなりそうなので、御厨はこれ以上話すのをやめようと決めた。
「ところでBDC(Brain,Development,Corporation)から、この研究所から能力者を見繕って連れて来い、なんて言われちゃって」と香椎が両手を軽く広げ首を傾げてみせると御厨は「ふざけるな!八百屋や魚屋じゃないんだぞ、ここは!」と怒鳴った。
「それにしてもアイツがそんなこと言うなんて… どうなってるんだ?そうだ!お前が実験してもらえ」御厨は香椎にだけは容赦がない。すると不意に香椎が人差し指を前に向けると“ツンツン”と合図をしてみせた。御厨もすぐに察知して奥のシェルターへと向かって歩き出した。
シェルターに入ると御厨は香椎に対して「向こうは今、何をしようとしているんだ?」と小声で聞いた。「小声じゃなくても大丈夫ですよ、もともと声の大きさなんて関係ないんですから、やつらには。」香椎は続けて「BDCは能力者の脳内で何が起きているのか解明を終えつつあります。それで脳内に直接電気刺激を与えて、能力のドーピング実験を始めています」
「ドーピングだと?」御厨は顔をしかめて「なんて危険なことを……、下手したら死ぬぞ?」
「ええ、オーバーキャパシティを起こして感情を失った能力者はもうたくさんいます。命を落とすことはほぼないものの、今度はその彼らを使って別の能力を目覚めさせようとしてるんです!」
「 別の能力?!」
「サイコキネシスです。感情を持たない彼らが別の能力を身につけたら私達は彼らの意識を察知できない。ここに侵入されたらお手上げです!BDCを潰さないと大変なことになりますよ!」と香椎は御厨に忠告した。
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