藤島ゆかり
ヤマトは何度も電気刺激を与えられ苦痛を味わった。連れて来られた当初は、吸盤のような物がついたコードをいくつも頭に取り付けられていたが、今はヘルメットのような装置に変えられ、手足の拘束は外されていた。最初の装置は能力に反応して強い電気を感じていたが、今の装置になってからはずっと弱い電気が流されていて相変わらず鈍い苦痛を感じていた。
ここではヤマトの食事や身の回りの世話を専属で担当する人がいるのだが、何だか妙な感じがする。
アカシャ研究所と同じように能力を制御するような部屋にヤマトはいたが、能力を遮断されているわけではなかった。そのため至近距離にいる人の意識を読み取ることは造作もないはずなのだが、この世話人からは感情がいまいち読み取れないのだ。人は常に感情が揺れ動いたりするものだが、この人にはその揺れがあまりない… これじゃあ人というよりロボットの方が近いかもしれない。しかし、それでいて日常会話は違和感なく交わせる不思議な人だった。
そしてここに来てからずっとその世話人しかヤマトは見ていない。「あの… 名前はなんていうの?」とヤマトは思い切って聞いてみた。すると「藤島ゆかり。よろしくね、ヤマト君」と答えた。藤島ゆかり… やはり何の感情の揺れも感じなかった。本当に不思議な人だなとヤマトは思った。
ヤマトはここに連れて来られてからずっと、頭の中にモヤがかかっているような感じがしていたが、それが徐々に晴れて行くような感覚がしてきて、ある事を思いついた。
17時を迎え、食事の時間にはまだ早いがヤマトはゆかりに声を掛けた。「ゆかりさん! 僕お腹が空いてきちゃった」するとゆかりは「どんなものが食べたい?」と尋ねた。「なんでもいいの? じゃあね、妖怪焼きが食べたい!」「なあに妖怪焼きって」「あのね、鬼太郎の妖怪焼き。調布に売ってるの」とヤマトが答えた。
ゆかりは「わかった、少し時間がかかるけど待っててね?」というと部屋を出て行った。
ヤマトは時計へと目をやり時刻を確認した。すると今度は目を閉じてこめかみに指を当て、何かを追うように頭を上下左右に動かし始めた……。
藤島ゆかりは調布へと車を走らせながら誰かと電話で話していた。
「… はい、異常ありません。はい。わかりました、引き続き監視を続けますフィクサー」
続けてどこかに電話しているようだ。
「もしもし、りょう? …、うん…、わかりましたよ!、香椎くん!」
ヤマトは疑問に思った。
ゆかりさんは〝 監視を続けます 〟って言ってた… 何でゆかりさんはウソをついてるんだろう… フィクサーって何…?
もしかして、ゆかりさんも能力者なの? そうだとしたら僕なんかよりずっと力を持った人だ!。それに、香椎さんとゆかりさん… ずいぶん親しそうだった。え? 何で??
しかし今のヤマトは能力を制限されているため、ゆかりの行動の全てを読み取ることは出来ない。かろうじてゆかりの声だけが読み取れる程度だ。ヤマトは続けて意識をゆかりに向けた。
ゆかりが調布に到着した。ヤマトが時計を見て「 20分だ 」と呟いた。
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