拉致
ヤマト達は施設を出発すると調布駅に向かって歩き出した。
近くではクリスマスイベントなどが開催されていて、コンサートなどもあってか人通りは非常に多かった。ヤマトは監視している3人の存在に意識を向けていたが、多くの人が集まり様々な意識が混在する中ではその意識だけを感じることは難しかった。駅に着くまでの間じゅう3人の意識をとらえ続けたことで疲れ果ててしまったヤマトは「ちょっと休みたい」と言った。研究所の所員【香椎】は「でも…」と言いかけたが、疲れているヤマトを見て二人は公園で休憩することにした。
公園のベンチに座り、右手でこめかみを押さえていたヤマトの首元に突然ビビビッと激しい痛みが走り、香椎の姿を見たのを最後に意識を失ってしまった。
………
…… ん? あれ?
ここはどこなんだろ…?
意識を取り戻したヤマトは何もない部屋の中にいた。椅子に手足を拘束され、頭にも器具が装着されていた。ヤマトは軽く頭を振ってみた。すると部屋のスピーカーから男の声が聞こえてきた。「気がついたかね?ヤマト君」聞いた事のない声の主は「手荒な真似をしてすまないが、少し研究所のことについて知りたいから協力してもらう」声は静かだがヤマトに選択の余地はない言葉だった。
そしてこの声の主は危険である、そうヤマトの心が警報を発していた。意識を集中しようとした瞬間、頭に激しい痛みを感じた。どうやら頭の装置は能力を使うと電気が流れる仕組みのようだ。
ヤマトは正体のわからない声の主に対して、抱いた事のない恐怖とともに強い不安を感じていた。(先生!助けて)
その瞬間、再び強い電気が襲い、またしてもヤマトは意識を失った。
その頃、児童養護施設では子ども達がヤマトから贈られたプレゼントを開けようとしているところだった。施設長が「みんなでお兄ちゃんにありがとうって言ってから開けるんだぞ!こら、勝手に開けるんじゃない!」と子ども達に言うと、「せーので言うぞ?せーの!」と年長の子が号令し『お兄ちゃんありがとう』と子ども達は声を揃えてヤマトに礼を言ったのだった。
まさにその瞬間、施設長には(先生!助けて)という声がはっきりと聞こえた。
ヤマトの身に何か起きたのだと察した施設長は施設長室へ急ぐと名刺入れからアカシャ研究所の名刺を取り出して御厨へ電話をかけた。
電話に出た御厨に「ヤマトは戻ってるか?!」と開口一番、急くように尋ねた。施設長だと理解した御厨は「ヤマト君もうちの者もまだ戻っていないがそちらを何時に出たのですか?……もしもし?もしもし?」という御厨の声が施設長には遠のいていくように聞こえていた。
「やはりヤマトに何かあったに違いない」
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