再会

アカシャ研究所を1か月ぶりに出るヤマトは、期待と不安の入り交じった気持ちを自分の中で言語化して明確に意識するようになっていた。「黄色8、黒2、よし、行こう!」ヤマトは自分自身を鼓舞するように言い聞かせた。


研究所を出ると同行する所員に話しかけた。「大丈夫、見張っているだけだよ? 攻撃するつもりはない。でも3人のうち1人は能力者だよ、注意しようね」同行の所員は黙って頷いて了解の意思を示した。調布駅までの約35分、電車の中で2人は無言で揺られていた。


一方、調布の児童養護施設では施設長室の中でまたも檻の中のクマのように落ち着きなく辺りをうろつく施設長がいた。いても立ってもいられず施設長は部屋を飛び出し、ヤマトが着く調布駅へ向かって車を走らせた。


調布駅に着いたヤマト達は改札を出ると東口の出口へ向かって歩き出した。階段を降りていくと目の前に、なにやら警察官と言い争う1人の男が目に入った。「1分や2分位良いじゃないか!」と言う男に警察官は「バスロータリーのあるこの場所は一般車両は入れません、一本向こうの道路に移動してください。移動しないと違反で取り締まりますよ!」と応戦していた。そこへ両手に荷物を抱えたヤマトがその男に声をかけた。「先生、ただいまー!」施設長はその声に気づき振り返ると、ヤマトを見て溢れんばかりの笑顔を見せた。そしてその穏やかな笑顔のまま警察官に顔を向けると「わかりました!すぐに移動しますね」と態度を一変し、ヤマト達に向かって手招きしたのだった。


児童養護施設へ着いたヤマトはまず、ここで生活している子ども達に自分が持って来たプレゼントを渡し歩いていた。ヤマトが施設を何としても訪れたい理由の一つに子ども達が寂しい思いを実感するこの時期にプレゼントを手渡しして、喜んでもらおうという思いがあった。「お兄ちゃん、ありがとう」と口々に言われたヤマトは、僕はここにいてちゃんと生きてきたんだなぁと、自分の存在が認められているという喜びを感じていた。


プレゼントを配り終えたヤマトは施設長室に入ると、施設長は首を長くして待っていた。ヤマトは促されるままにソファへ座ると「先生、ただいま!」と改めて施設長に向かい挨拶をした。施設長も感慨深い表情で「久しぶりだな、ヤマト君」と言った。


ヤマトは施設長に研究所での暮らしぶりや、御厨を始めとする所員の事を楽しそうに話したが、外に出られない事や別の組織のことは話さなかった。

「向こうでの暮らしが楽しそうで安心したよ。子ども達も喜んでいるようだしいつでも帰ってきて良いんだぞ!」と施設長は嬉しそうにヤマトに言った。「うん!必ずまた帰ってくるね」と笑顔で言ったヤマトだったが、生まれて初めてついた嘘に対する罪悪感が隠し切れないような気がして施設長からすっと目を逸らしたのだった。


あっという間に帰る時間はやって来てしまった。

ヤマトが施設長室を出る前に独り言のようにこう言った。「黄色6、黒4、よし、まだ大丈夫!」それを聞いた施設長は「黄色6?黒4?なんだそれは」とヤマトへ聞いた。


するとヤマトが鞄から黄色い表紙のスケッチブックを開き、ある絵の黄色い光のような部分に指で大きく円を描きながら「黄色6」、次に黒い部分をまた指で大きく円を描きながら「黒4」と説明した。


施設長はヤマトの全くわからない説明を聞かされ、首をかしげるしかなかった。

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