救出

夕方。


施設の庭で遊んでいたヤマトの姿が見えないことを職員が気づいたが外に出るところを見たものは誰もいなかった。

施設長は嫌な胸騒ぎを覚え、すぐに警察へ連絡するように指示した。


警察が到着する頃には辺りは暗くなり始めていた。警官から心当たりや行きそうな場所、行先を示すものがないかと聞かれた。


心あたりはなく、手掛かりといっても…。


施設長はふいに慌てて職員に言った。

「ヤマトのスケッチブックを持ってきてくれ!」


スケッチブックには本間幸哉の顔が描かれていた。施設長の頭の中で点と点が線でつながった瞬間だった。



本間幸哉の家。1階のリビングからは光が漏れている。ヤマトは自分の家に入るかのように門を開け、黙ってドアを開けようとしたが鍵が掛かっていて開かなかった。リビングの窓の奥から見える人影を確認すると窓をノックした。反応がないと分かると再び今度は強めにノックした。


すると窓が開き姿を見せたのは本間幸哉だった。本間はヤマトをみると軽蔑したような冷たい目を向けて「誰だ、お前」と言い終わるより先に土足のまま家の中に入り込んだ。

キッチンの奥の部屋へ迷わず進むとドアを開けた。そこには暗い部屋の中、椅子に縛り付けられた博幸がいた。

幸哉はリビングの窓も閉めずキッチンへ向かうと包丁を取り出そうとしていた。


その時、窓からもう一つの人影が家の中に入り込んだことには気づかないまま包丁を持った幸哉がヤマトと博幸のいる暗い部屋へと入っていった。


「小僧、何しに来た!」幸哉のヤマトを見る目は怒りと恐怖に満ちていた。

ヤマトは幸哉の存在が最初からなかったかのように無視して博幸を縛っているロープを解こうとしている。幸哉が無言で包丁を振り上げると、ガシッとその腕を掴む者が現れた。


抵抗する幸哉ともみ合いになり、幸哉の持つ包丁が突き刺さった。

その瞬間、玄関から多くの警官がなだれ込み幸哉を確保した。



刺されたのは松岡だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る