ヤマトの秘められた力


児童福祉施設の施設長室。


革張りのソファーに座っているヤマトは足をバタバタさせて、初めての感触を楽しんでいるようだった。

向かいに施設長が座るとソファーがズンッと悲鳴を上げて沈む。

2人の間に割り込むようにノートPCが置かれていた。


「さて。ヤマト君はなんで水原が人を殺したのを知ったのか教えてくれるかい?」

施設長はカタカタと指を動かしながらノートPCとヤマトに視線を交互に向けて言った。

「うーんと、見れば分かるの。先生の事を考えると全部見えるから」

ヤマトがそう言うと、施設長はすかさず「もう先生って言わなくて良いからね?」と訂正し、「じゃあ僕の事も分かるのかな?」と興味半分で聞いた。

「分かるよ。昨日はおかずを盗み食いしたし、先生になった時は、あの髪の長い女の先生の事好きだったし、その前は…」

「ヤマト、それ以上言わなくて良いから」と施設長はヤマトの言葉を遮り、聞いたことを後悔した。

「じゃあ、先の事はどうしてわかるの?」と質問を変えた。

ヤマトは少し考えると「よくわからないけど、お絵かきしていたりするとわかる時があるの」と言った。


ヤマトが言うには、過去は見ればすぐにわかる。未来については無心に何かに取り組んでいる時に、ふわっと降りてくるような感じ、ということらしい。いずれにせよヤマト君には特殊な能力があるかもしれないと言う事だろう。


未来が見えるということなら、ヤマトを上手く利用すれば何かで一儲けすることだってできるのではないか…?


施設長はヤマトを見ながらよからぬ事を考え、自分の卑しい気持ちが脳内で映像化された気がして咄嗟にその考えを引っ込めた。


「今考えたこともわかるのかい?」

施設長が恐る恐る聞くと「わからない」と素っ気ない返事が返ってきた。


「先生、もうつまんない」と退屈そうにヤマトが言った。

「またお話し聞かせてくれるかい?ヤマト君」「いいよ!ねぇもう遊んできていいよね?」と言うと、返事も待たずに元気良く部屋を飛び出して行った。


…ヤマトに社会生活は無理かも知れないな。彼にはもっと相応しい生き方があるのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る