邂逅(かいこう)

施設長が車を走らせている頃、その動きを監視している意識体があった。それは彼の存在、思考、行動の全てに対して否定的な考えを持つ者である。簡単に言えば施設長を邪魔だと考える何者かがいるということだ。


同じ頃、香椎に一本の電話が入った。

「はい」

『あぁ私だ、犬が一匹ヤマトのもとへ向かっているらしい。』

「そうですか、それで私にどうしろと?」

『新しい事を為す時には常識は邪魔でしかない、私に関わらなければどうしようと勝手だが関わろうとするものは駆除する。』

「わかりましたフィクサー、すぐに向かいます」

『信頼してるぞ!香椎くん』というと電話は切れた。

香椎はフィクサーと呼ばれる電話の主、BDC代表の西田ノアの顔がよぎり、「ふん」と鼻を鳴らすと「奴から信頼なんて言葉が出ると反吐が出る」と言うや否や、込み上げる感情をなんとか塞き止め、正反対の感情を作り上げていた。


カチャリ――、ドアを開けて入ってきたのはゆかりだった。

「ヤマト君おまたせ、妖怪焼き買ってきたよ」と言うとヤマトに袋ごと差し出す。

ヤマトは「うわぁいい匂い!ゆかりさん、ありがとう!」と少し大げさに言ってみるが、ゆかりはニコリとするわけでもなく、すぐに夕飯の支度に取りかかるのだった。

するとゆかりの携帯電話に一本の電話が入る。

「はい」

『僕だ、香椎だ。いいか黙って聞くんだ』

「……」

『間もなくそこに客人がくる。』

「客人?」

『いいから黙って!、客人が来たら中に入れるんだ。僕もすぐ行く』

「……」

『…聞いてるのか?』

「あ、話していいのね?わかったわ。」

『あまり長く話していられないんだ』

「了解です」

(大丈夫だよ、僕が聞こえないようにしてるから)

ヤマトは香椎に向けて意識をとばした。


電話が切れるのとほぼ同時に香椎の言う【客人】が現れた。

ゆかりがドアを開けるとものすごい勢いで施設長が飛び込んできた。「ヤマト!大丈夫か?!」と叫んでヤマトを見た。


視線の先には、妖怪焼きを頬張って「ふぇんふぇい(先生)」と施設長を見るヤマトがいたため拍子抜けし、そして目を丸くした……。


ゆかりの目が施設長を見てほんの少しだけ動揺したのを本人より先に気付いたヤマトだった。

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