第7話 突撃!真相を確かめろ!?

「納得出来ないわ!」

 急に部屋に入ってきたかと思うと、弥勒はそう叫んだ。おかげで侑平は、どこまで本を読んでいたか見失う。まったく、自室では呑気に本すら読めないらしい。

「な、何がですか?」

 で、無視すると報復される危険もあるため、侑平はすぐに訊ねる。

「あの女よ。本当に奥さんやってたのかしら」

 ずいっと、弥勒は侑平に顔を寄せて言う。ご近所の噂好きの奥様のようだ。

「あー。琴の君ですか?」

 女に該当するのは、この寺では弥勒以外に彼女しかいない。

 かつて礼門が家に置いたという、琴の付喪神だ。その彼女は、礼門の正妻だったという。

「そう。納得出来ないのよね。あまりに出来すぎていて。助けて嫁にするって、ただのパターンでしょ。言い訳に使ってただけだわ」

「――まぁ、異類婚ですしね」

 言い訳云々は一先ず横に置き、結婚していたという流れは、妖怪たちの流儀に合わせただけという可能性はある。昔話にあるように、助けたモノが恩を返すために嫁ぐというのは、流れとしてあるものだ。そして家を繁栄させる。

「そのとおり。だから、何もなかった。ノーカウントよ」

 拳を握り締めて言い切る弥勒は、礼門を本当に慕っているのだろうか。どう考えても、腐女子として楽しんでいるとしか思えない。

「じゃあ、琴の君に聞いてみましょうよ」

あまりに女性にモテないイメージが付きすぎでは?そう心配した侑平が提案する。

「――いいわよ。白状させてやるわ」

 さすがに女性相手だと遠慮が出るのか、弥勒は一瞬躊躇ったものの、臨むところだと頷いた。すでに果たし合いのような感じになっているのが心配だ。

「今日も薬師さんに新レシピを教わってるはずです。台所に行ってみましょう」

 さっさとやって、侑平は読んでいた本(有名な物理学者の本)に戻りたい。心の平穏を保つには、やっぱり科学な侑平である。弥勒菩薩が腐女子なんて、本当は認めたくないのだ。現実は容赦ないが。

「料理屋やってるんだったわね。自立してるのは好感が持てるわ。でも、礼門の嫁とは認めない!」

 台所に向かう最中、弥勒はそんなことを言う。礼門、マンガのキャラのようになってないか?推しとの結婚は認めないみたいな。侑平はますます、礼門に同情してしまう。

 寺の台所はとても広く、そして古風だ。土間となっていて、和服姿の薬師如来と琴の君は馴染んでいる。

「夫婦みたいですね」

楽しそうに料理する二人は、とてもお似合いだった。それに、弥勒は一層むくれる。

「――」

 そう言えば、弥勒は薬師如来に惚れているのだった。ややこしい。

「おや。どうしました?」

 入り口で固まる二人に気付き、薬師如来が笑顔で訊く。さあ、どうなる。修羅場かと、侑平はひやひやだ。

「彼女に質問よ!」

 そして弥勒、ずばっと指を突き刺し宣言した。

「私ですか?」

 指名された琴の君はきょとんとした。

「ええ。貴女、礼門と同衾したことがあるの?」

 完全に勢いで訊いたなと、侑平だけでなく薬師如来もフリーズ。同衾――つまり寝たことがあるのかとの質問だ。

「――ないわよ。あの人、私の誘いに対して、自分の子どもなんて欲しくないって。その顔があまりに可愛くて、許しちゃったわ。それに、死ななくなったでしょ。無理よね。間違って出来ちゃったら、礼門にもその子にも、苦労させちゃうし、悲しませちゃうし」

 それに対しての琴の君の答えに、弥勒は負けたと悔しそうだ。他に色々、訊くべきだと思うのだが。

「あのぉ。琴の君から、お誘いを?」

 そして、侑平はこの際だと、突っ込んで訊く。もうドキドキだ。美人にこんな質問、相手が異界のモノと解ってなければ出来ない。

「もちろん。助けて頂いたんですもの。礼儀でしょ?」

 それに対して、琴の君の答えは男前だった。

「れ、礼儀、ですか」

 そのあまりにキッパリした答えに、侑平がたじろいてしまう。

「ええ。それに――弥勒様がお疑いのように、あの方、女性に積極的ではないから」

「やっぱり!」

ころころ笑う琴の君と、弥勒がいつの間にかハイタッチしていた。そして女子二人で盛り上がり始める。

「琴の君。礼門ってやっぱり受けよね!」

「そうねえ。ドSな殿方に迫られるタイプよね~」

 さらにまさかの二人揃って腐女子トークに突入。日本のサブカル、恐るべし!!

「礼門さん。大変っすね」

「彼の態度が、悪いんでしょうねぇ。それに女性に積極的でないことが、影山みたいなのに付け込まれる原因ですよ。男好きに見えてしまうというか」

 へなへなと座る侑平に、さらなる止めを刺してくれる薬師如来なのだった。

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