第11話 心を読まれる
「う~ん…。」
俺が目を開けると見た事がないくらい綺麗な空が広がっていた。そして白い砂浜、青い海…ここはどこだ?
“目を覚ましましたね。”
声のする方を見ると美しい女性が立っていた。青い瞳に青い髪、透き通るような肌はまるで白大理石の彫刻のようだ。そして何より
も特筆すべきはオッパ……。
“いやらしい想像はお止めなさい…。”
思考を読まれた!恥ずかしい!…って待てよ?思考を読まれる?当たり前だがそんな事出来るはずがない。出来るとすれば神様くらいなものだろう。
そこで俺は考えた。思考が読める=神様。神様=天国。天国=死後の世界。そうか…俺は死んだのか…。死んだとなれば恥ずかしがる事はない。では見ようではないか…その見事なオッパ……。
“…ですから、いやらしい想像はお止めなさい。あなたは死んでなどいませんよ。”
マジで?ならここは…。
“ここは私達の場所…あなた達の言葉を使うならば国と言えば分かりやすいでしょうか。”
ふ~ん。俺の最後の記憶は助けたリヴァイアサンの背中にしがみついてた事だな。それからどうなったんだっけ?
“あなたはスピードを出し過ぎたあの子の背中で気を失ってしまったのです。あの子はまだ幼いですからね…加減というものを知りません。申し訳ありませんでした。”
そうだったのか…。そうだ!スレイとテイルは!?
“気付いていないのですか?ほら、あなたの隣にいるじゃありませんか。”
女性の言うように俺の隣にスレイとテイルが横になっている。はやり気を失っているようだ。何で気が付かなかったのだろうか?たった今出現したような感覚だった。しかしあれだな…スレイのオッパイもなかなかのサイズだと思っていたがあの女性のはやはり凄い。あっ!でも、別に大きければ良いって話じゃないよ!大きかろうが小さかろうが問題はそこではないのだ。それは好みとしか言いようがない。何が良いオッパイなのか、悪いオッパイなのかの論議など実に不毛だ。そもそもこの世の中に悪いオッパイなどないのだ!!
“……ちょっといい加減にしないと流石の私でも怒りますよ?”
俺のオッパイ論も読まれてしまった。怒るくらいなら読まなきゃ良いのに…。
“まあ、良いでしょう…。あなた達にはお礼を言わなければなりません。我が一族の子を助けてくれてありがとうございました。”
え?今何て?リヴァイアサンは助けましたけどね。それ以外は覚えがないんですけど。
“驚かせないようにこの姿でいるのですが
…では…。”
そう言うと女性は海に入り沖に向かって泳いで行った。女性の姿が豆粒程の大きさになった時、そこで大きな水柱が轟音と共に巻き起こった。そしてそこから巨大なモンスターが顔を出した。それがこちらに近付いてくる。顔だけで50メートルはあるよ!怖い怖い!!
“御覧の通り私はあなた達がリヴァイアサンと呼ぶ存在です。改めて申し上げます。この子を助けてくれてありがとうございました。ほら、あなたもお礼を言いなさい。”
見るとその大きなリヴァイアサンの周りを子リヴァイアサンが楽しそうに泳いでいる。
“ありがとうお兄ちゃん!!”
お兄ちゃんか…何年振りにそう呼ばれただろう…悪い気はしない。
「ヒィ!!」
俺の隣でスレイが悲鳴を上げる。あっ、おはよう!起きたんだね。
「何何何!?」
スレイは目の前にいるリヴァイアサンに驚いて腰を抜かしたまま後ろに下がっている。
「どうやらリヴァイアサンの国に連れてこられたらしい。さっき、子供のリヴァイアサンを助けた礼を言われたぞ。」
「ジェロームは何でそんなに冷静なのよ!」
もうたっぷり驚いたからね。最初に目が覚めて良かった。
「んあ~リヴァイアサンがたくさんいるべ。壮観だな~。」
テイルも目を覚ましたようだ。驚かないんだね。テイルの言うように沖には数十…百近い数のリヴァイアサンがこちらを見ていた。背筋が寒くなる。
「天災級のモンスターがこんなに…。この世が滅ぶ数ね…。」
スレイが顔をひきつらせながら呟く。
“皆あなた達にお礼を言いたいそうですよ。それに一つ誤解があるようですね。”
リヴァイアサンは再び女性の姿になり俺達に話し掛けた。
「誤解?」
“ええ、我が一族が人間に危害を加えた事はただの一度もありません。”
「え?でもリヴァイアサン退治は過去に何度も…。」
“あれは私達の一族ではありません。なぜあなた達人間は違いが分からないのですか?全然違うじゃありませんか?私達の鱗は滑らかで彼ら…ここでは『リヴァイアサンモドキ』と呼びましょうか…その鱗はざらついているんですよ?”
いや、わかんねぇよ。
「…で、お礼が済んだという事ならそろそろ帰して貰いたいんだが…。」
“その前にあなた達に贈り物があるのです。”
何ですと!?なんかくれんの?
リヴァイアサンは懐からジャラジャラと鱗を出した。
「鱗だべか?綺麗だしレアだとは思うんだべが、価値が分からねぇべ。」
「そうね…。」
な…何を言う2人とも!!これはな…
「ありがたく頂こう!!」
リヴァイアサンの鱗。それは太古の昔、リヴァイアサンを神と崇めていた民族が利用していた伝説の材料だ。加工技術も古文書等で残っているのだが、近代になって使用された事はない。そもそもリヴァイアサンの鱗が市場に出た記憶が少なくとも俺にはない。まあ、出たとしても眉唾物なんだろうが、何せリヴァイアサンから直接貰うのだ。これ程確かな本物はないだろう。(元)装備屋の血が騒ぐぜ!!
「え~!お金とか宝石とかの方が良いんじゃないの?」
「これはこれからの俺達の大きな助けになるぞ。まあ、後でのお楽しみだ。」
“お金やら宝石やらも欲しいのですか?そんな物ならその辺に転がってますから好きに持って行っても構いませんよ。”
「「「え?」」」
「ありがとう、リヴァイアサン。まさかこんな所まで送って貰えるなんて助かるわ。」
あの後、俺達はしこたま金や宝石を拾った。それらは信仰されていた時代に人間から贈られた物らしいが、彼らにとってそれは無価値だったらしい。本来リヴァイアサンの鱗も彼らにとっては新陳代謝の度に出る老廃物でしかないのだが、太古の人間が特別重宝したために俺達へのお礼の品としたらしい。ちなみに彼らにとって最も価値の高いモノは『真ん丸い岩』だそうだ。…分からん!!
そして、俺達の目的地がクラマールだと伝えると今俺達がいる場所へと送り届けてくれたのだ。スレイ曰く、この移動で旅の道のりを半月程短縮出来たのだそうだ。一つ気がかりだったのはクラマールと言った時にリヴァイアサンが首を傾げた事だ。その後スレイとテイルが何やら説明して分かったような雰囲気だった。
今更クラマールとは何なのかは恥ずかしくて聞けない。街で本屋があったら少し調べてみよう…。
俺達はリヴァイアサンに人目につかない海岸に降ろして貰い最寄りの街へ向かって歩き出していた。
「街まではどのくらいなんだ?」
ずっと波に揺られていたせいか歩いていてもフワフワとした感覚が残るのを感じながらスレイに尋ねる。
「海岸沿いに小一時間歩けば着くわよ。そこも海沿いの街ね。お腹空いたわ…。」
「そだな~。街に着いたらまずは飯食うべ。」
あっ、確かに…そう言えば前の街でサシを食べてからはろくなものを口にしていない。そうだ!!『カッパ』をまだ食べてないぞ!その街にもサシ屋はあるのだろうか?
「なあ…、俺はサシが食べたいんだが…。」
俺は『カッパ』食べたさに勇気を振り絞り提案する。
「え~またサシ?他の物食べましょうよ。」
「サシはたま~に食うから美味いんだべ?そんなちょくちょく食うもんじゃねぇとオラも思うべ。」
却下されちゃった…。
俺が絶望感に襲われながら進んで行くとスレイとテイルが足を止めた。どしたの?
「ちょっとあれおかしくない?」
見ると前方の空を黒い煙が覆っている。
「あれは街の方角だべ!!走るべよ!!」
俺達は走った。そして街の全貌を見渡せる場所にたどり着き再び足を止めた。
「これは…戦争か?…いや、攻めているのはモンスターだな。街が襲われている!」
戦争と見違える程大規模な戦闘だった。襲われている街もかなりの大きさである。あの規模であれば兵士もかなりの数が駐屯しているであろう。それでも贔屓目に見て互角、やや押されている印象だ。
「これは近付かない方が良いわね。」
「腹減ってるけど仕方なかんべ。少し遠回りして次の街に向かうべ。」
冷たいと思われるかもしれないが、俺達は冒険者だ。基本的には戦争レベルの戦いは軍人や傭兵がやる事だ。まあ、中には冒険者兼傭兵という人もいるが、スレイとテイルは違うようだ。もちろん俺もそんな気はない。それにたった3人が加わったとしても大局に問題などないのだ。
と、言うわけで俺達は大きく迂回をして更に先の街に行く事にした。
「でも不思議ね。さっき街を襲っていたモンスター色んな種類が混じってたわね。モンスターが徒党を組むなんて物語でしか聞いた事がないわ。」
確かに。スレイの言う物語とは過去の歴史物語ではなく作家による創作物語だ。つまり現実にあった事がない。
「だとすれば考えられるのは2つだな。」
「2つ…なんだべ?ジェロームさん?」
「1つは創作の物語の魔王のような…そこまででなくとも知能の高いモンスターが統率している場合だな。」
「もう1つは?」
「あの街自体にモンスターを引き付ける何かがある…という事じゃないのか?」
「なるほど…例えば?」
うわ!出ました…一番困るこの質問…。こっちだってそこまで考えてからしゃべってる訳じゃないんだよスレイ。同じくらい困る言葉としては「オチは?」と、もう話が終わってるのに「それから?」ってヤツ!!
「例えば…」
それでも俺は答えなければならない。なぜなら俺は博識の熟練の冒険者…設定なのだ。なんとか例えを捻り出さねばなるまい。
「リヴァイアサンの貴重な物が『真ん丸い岩』だったろ?人間がそれに相当するモンスターが大切にしていた物をあの街に持ち込んでしまった…とかが考えられないだろうか?」
「なるほど。」
「なるほどだべ。」
ごまかせた…。
だがこの俺の適当な推論が正しかったと分かるのはもう少し先の話であった。
つづく
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