day -13:キッサテン
一週間と六日前。
次の放課後は、喫茶店で待ち合わせしてみた。一緒に歩いているのを見られると面倒くさい(卯生は彼氏がいる上人気者だし、僕は度重なる失態で注目の的だ)ので、時間差をつけて下校し、しかも学校から少し離れたところの喫茶店で集合だ。
卯生はラテを注文し、僕はブレンドコーヒーを注文した。ラテとオレはどう違うのとか、他愛のない会話を経て、本題へ入った。
「これ見てて思ったんだけどさ」
くしゃくしゃ度合いの増したルーズリーフを取り出す。
まだ持っていたのか。
「マルが無いよね」
「あったらストーリーが終るだろうが」
妥当すぎるボケツッコミだな。
「サンカクがあるよね。リストカット……か」
「楽だしね。風呂場でやれば迷惑も少ない」
「けれど詰まらない?」
「そうそう」
ラテをずずずと啜りながら、卯生は頷く。僕はあの後気付いた、判断基準の補強について話した。
「昨日挙げた基準の内の、どれにも入るかもしれないんだけどさ。やっぱり、確実さというのは外せないよな」
「……ん。確実さ……死に損ねないってこと?」
「そうだね。死に損ねるのは他人にも迷惑がかかるし、無様だし、何より面倒臭い。そうはいっても、ある程度練習すれば、どの死に方も成功率は上がると思うけれどね」
「自殺の練習かぁ」
響きが面白かったのか、卯生は笑う。確かに滑稽な話だけど、物事を達成するためには、試行錯誤、努力と繰り返しが必要だと思う。何事にも。
ブレンドコーヒーに砂糖を入れて、僕は口にした。熱いっつーの。
「既出の案から、順に検討していってもいいかな?」
「かまわんが」
「じゃぁ、最初……首吊り! これちょっと浪漫じゃない?」
「首吊りはなー。ぱっと見、絵的には悪くないんだが……。舞台設置が面倒なんだよ。人一人がぶら下がれる場所……途中で見つかると気まずいし……それでいて発見されなきゃ切ないし、さらにありがちなだけ、演出を工夫する必要がある。しかも、聞いた話ではさ……あれ」
「どれ?」
「肛門やらが弛緩して出るあれさ。ぶらたれてる上に、あれもぶらぶらぶちまけじゃ格好悪いだろ。それにしたって、絶食やら、何か詰めるやら、あるんだろうけれどね……そういう前準備すら格好悪い気がするぜ」
卯生は目線を上にやった後、成る程と言った。想像しない方が良いとは思うが。
「次はリストカット。これはさっき聞いたね」
「加えるなら、これもありがちだしな。今日日、手首の傷なんて無い方がおかしいぜ」
「こらこら、世界観が誤解されるようなコトいーうーなー。はは、でも確かに、いかにもこーこーせーだよね。なら次、飛び降り自殺ー」
「ありがちだね」
「ありがちですね」
それに尽きる。
「厳密にいえば、場所探しが面倒だとか柵を超えるのが面倒だとか後の処理が面倒だとか、迷惑だとか、本当に死ねるのかとかあるわけだが……飛び降りっていうのが今時流行らないよな。自殺じゃなくて他殺ならまだしもさ」
「それでもありがちじゃん? 学校の七不思議になっちゃうよ。線路飛び込みは? これ、一度マルを消してバツにしてあるみたいなんだけど」
「ちょっといいのを思いついたんだが、やめた」
「なになに?」
「目を輝かせるなよ……」
「うーうちゃんが誤解されるようなコトいーうーなー」
実際はかなりおざなりな相槌だった。説明する気が削がれるじゃねぇかよ。
まぁ、順を追って話してやろう。
「あー。人身事故って、電車が遅れるじゃないか。あれって何だと思う?」
「死体回収するからでしょ。線路の掃除もするのかな。最悪1時間くらい遅れるよねー」
「第一問、一番手っ取り早く電車が復旧する場合を述べよ」
「はぁ?」
卯生は首を傾げる。回答を待たず、続ける。
「第二問、逆に最も復旧に最も時間がかかる場合は?」
「えー。っていうかあたしが回答するのを求めてない問いだよねぇ、それ?」
「ま、そうだ」
「さっさと模範解答を示しなさい」
「あいよ。手っ取り早いのは、飛び込んだ奴が死んでいて、且つ線路の外側に飛ばされてる場合だな」
「なーる。直接線路上で回収作業しなくてもいいから、電車自体はさっさと動かせるんだ」
「そ。逆に時間がかかるのは、バラバラ死体だったり……線路へ落ちて、しかも生きていたりする場合だ。下手に生きてるもんだから、殺さないように回収しなくちゃいけないんで、慎重さが必要になる」
「あー。しかもそれ、飛び込んだ人は散々だよね。五体満足ではいられないだろうし、何の保証ももらえないだろうし……惨めだわー。……で、それがどう繋がるの?」
「この話を聞いた時に僕が思ったのは、電車に轢かれても死なない場合があるんだな、ってことだよ。あれだけの質量に衝突して、死なないのはあんまりだ。さて、ここで考えてみる。線路へ飛び込んでおきながら、電車に轢かれておきながら、どういう場合に死なないか――そして、逆にどういう場合に死ぬか」
一端言葉を切って、コーヒーをかき混ぜる。少しは冷えたかな。
「普通に、当たり所が悪いんだよね。腕だとか、肩が当たって、衝撃を吸収しちゃうんだ」
「そうだろうね。ということは、急所へ確実に命中させれば……電車の質量、速度、それらでほぼ確実に、死なせてくれるはず」
「急所っていうと」
卯生は自らのこめかみを人差し指で示す。
「うん。そこさえ――そこだけが電車に命中すれば、問題ない。僕が考えたのは、黄色い線の後ろから飛び込み自殺、っていう奴さ」
「はは、黄色い線の後ろに下がって……ちゅーことね」
「ちょっと面白いだろ。正確には倒れこみ自殺になるのかな。慎重に吟味すれば、綺麗に頭だけ轢いてもらえる。首が飛ぶか、皮一枚繋がるか、それはわからないけれど――まぁ、まず死ぬだろう。しかも一瞬で」
「線の後ろ側に下がっておきながら、死ぬわけ。やるとしてー、吟味にどれくらいかかるかな?」
「三日かけたいね。まず電車の吟味、時間帯の吟味、そして倒れこむ距離の吟味。どれも同じくらい重要だ」
「メジャー持って測るの? 注目されないかなー」
「自分の歩幅使えばいいだろ。部屋の中ででも練習して、後は歩くだけ。簡単な話だ」
「なーる。何でバツにしたの?」
大分飲みやすくなったコーヒーを、一口分口に含む。
「やっぱり電車は止まるだろ。それは迷惑だし……飛び込み自殺もありきたりだ。もう一超え欲しかったんだよね。で、思いつかなかったから、バツ」
「あそ。ここまで来ると、交通事故は確かにバツバツだね」
「死ねるかどうかがまず怪しいからな。向こうが避けてしまったら、どうしようもない。人を轢きたがっている人間に運良く当たればいいが、宝くじみたいなものだよな」
「そこで宝くじに例えるんだ……」
前後(通行人)賞大当たりです。
不謹慎な話だ。
「電信柱に頭を打ち付けてバツ」
「ネタがなくなってきちゃってね。絵的には面白いが、途中でめげそうだ。やり遂げるには、何かしらのクスリが必要になってくるだろう」
「見てみたいけれどねぇ……いや、見たくないか。で、とりあえず終りか」
昨日思いついたのはそれだけだった。我ながら、想像力に乏しいものだ。絵的に面白かったり、ぶっ飛んだ案はいくつか思いついたが、実行に移せるかというと怪しいものばかりだった。迷惑をかけず確実に、そして絵に描いたように死ぬ。これが中々難しい。
「土台、死ぬこと自体が迷惑な話だからねー」
言いながら卯生は、ルーズリーフを脇に置き、残り少なくなったラテのカップをくるくる回す。
「ん? 何で死ぬことは迷惑なの?」
「考える前に疑問を口にするなよ。それは……」
コーヒーを飲み干し……おっと、砂糖が溶けきってなかったか、甘い……、カップを戻す。
「周囲が予想してないからだろ」
「一昨日のような昨日があって、昨日のような今日が過ぎて、今日のような明日が来て、そんな一週間が続いて、一ヶ月、一学期、一年、で、成長していくあたしたち――ってことか。誰だって、突然死んじゃうかもしれないのにね。変なの。白樺君、覚えてる?」
「中学の頃の同級生、白血病で亡くなった奴。葬式にも出たな。背ぇ高くて、サッカーが好きだったはずだ。覚えてるよ」
亡くなったと聞いた時の、妙な違和感を思い出す。
「妙な違和感。あるいは喪失感か。だけど、白樺君には悪いが、他人にとってはその程度――時間が経っちまえば、そんなものだろ。勿論、遺族の方々や親友の奴等にとってはそんな事ないのかもしれないが……」
しれない、が。驚くほどに、僕の決心は揺らがない。それがなんだっていうんだろう?
変わらず世界は回り、周りの世界は変わらずだ。
「迷惑、っていうのは……そうだな。人生を道に例えてみよう」
「おおう、またもやありがちーな比喩だねぇ」
「ありがちだが、それゆえに比喩として優れてる。人生をカプチーノの泡を掬い取ったスプーンに例えてみよう、とか言われても困るだろが」
「それはそれで一つのお話が始まりそうだけど。で?」
「その上を僕らは歩いているわけだ。ただし、目隠しでね。しかも後ろから常に、圧力を感じつづけてる。横スクロール式のゲーム画面みたいに……タイムリミットが差し迫ってるって感じかな」
「ふぅん。そうすると、おぼつかない足取りながらも、急がなきゃいけないわけね」
「誰しもがそう。だとすると、頼りになるのは今まで歩いてきた足取り――一歩一歩踏み出してきた、歩行の感触だけになるのさ」
ああ、と。卯生は得心いったような顔をした。カップをくるくる回し続けていた手を止める。
「サイクル。昨日から今日明日へ続く、一歩一歩。今まで一歩進んできたように、私たちはもう一歩を進めているから……そこに、少しの違和感や、ちょっとの異常があると、途惑っちゃうんだね。踏みしめた大地の感触が違うだけで、転びそうになっちゃう」
「僕らの周囲では、人間が当たり前に生きている。今日隣に居た人間は、明日も隣に居るもんだろ。そうやって世界が回って、その感触を頼りに僕らは歩き続けている。だから――知人の死は異常であり、不確かな足場であり、蹴つまづきそうな迷惑な石ころ――というわけだ」
「戦時中とか、今戦時中の国とかでは、また違う感覚なのかなぁ」
「迷惑云々の前に、自分の命を守るのに必死だろう」
そんな中、僕は自殺を考えている。けれど、それが命をないがしろにしている事だろうか? 戦時中やら、発展途上国では、常に物資が足りていない。それを先進国が食いつぶしている。僕が一人死ねば、その分物資に余裕が出来て、生きたい人たちへ回すことが出来るのではないか。そう考えてみれば、僕がやろうとしているのは愚かしい行為ではなく、他者を救うための誉められるべき自己犠牲なのかもしれない。
と、そんな事をいってみた。
「んなわけないじゃん」
失笑した後、ラテを飲み干して卯生が続ける。
「単純な足し算引き算でいえば、あたしたちがちゃんと生きて、発展途上国の人々を救ったり、戦争をやめさせたりする方法や発明を考えた方が、ずっとたくさんの人を救えるよ。そうじゃなくても、ちゃんと稼いで募金すれば良いだけの話じゃん」
「反論の余地もないな」
その程度の事、しっかりわかっている。僕は余裕ある自殺者だ。
それらの言葉の連なりが口先だけである事も、わかっている。
「…………」
「……んー……」
お互い飲み物も飲み干して、良いアイデアも出ず、無言のまま時間が過ぎる。たまにうめき声を上げるくらいだ。うーとかんーとかむーとかにぬーとか。三人寄れば文殊の智慧というが、文殊様は自殺のアイデアなんか出してくれないだろうし、そもそも三人には一人足りない。もう一人増やすわけにもいかないしな。
半ばぼうっとしていたところで、卯生が溜息のように言葉を漏らした。
「あたしも死んじゃおうかな」
「……、はぁ?」
思わず呆れたような声になる。最初は自殺法かと思ったが、そうではないらしい。言葉だけの意味。しかし、脈絡が在るような、無いような、判断に困る発言だった。というか対応に困る。普段からいつでも元気ハツラツムスメが、死んじゃおうなどと、似合わない。顔を覗き込むと、微妙な表情をしていた。笑顔ではなく、笑おうとしている顔。笑えない。
「何をいきなり」
「うーん。最近さぁ……せーせと上手く行ってないんだよねー」
「渡砂と?」
渡砂瀬々斗(わたりずな せせと)。
保呂羽卯生の彼氏――つまりは恋人であり、学校は同じで、クラスは違う。僕らはC組で、渡砂はA組だ。ランクでクラス分けされているわけではないので、これは向かいに位置したクラスではないという意味しか持たない。
渡砂は卯生と釣り合っている人間だと、他人からは評価できる。釣鐘と提灯ではないわけだ。勉強も出来るらしいし、運動でも他人に引けを取らない。何より顔の造形と体形が良い。運動を例に挙げるのなら、他人に引けを取らないどころか、スポーツしている姿がパフォーマンスになるほどだ。下手をすると女子がキャーキャー言いそう(実際にそんな事はない。それが起こるのは、漫画の世界くらいだ)なくらい、格好良い。そして父親が政治家だ。セージカというと鹿の一種みたいだが……そんなジョークは負け惜しみにもならないだろう。つまり、お家柄も良いわけだ。
さて、そんな渡砂との関係が――いうなれば恋人関係が、上手く行ってないらしい。
「うん。上手く行ってないんだー」
にへへ、とわざとらしく笑顔を作って、卯生が言う。
「その程度で死のうとするなよ」
「すっげぇ白々しい台詞を真顔で言わないでよ」
「わざとらしい笑顔で台詞を言われるよりましだぜ」
「…………」
「幼馴染だろうが」
卯生は、笑顔を消した。目線を泳がせ、口先を尖らせたままで話し始める。
「せーせってば、あたしのことを必要だって、言うんだよね。俺にはお前の存在が必要だって。綺麗な関係じゃない。言外に、俺を支えてくれって言ってるのがありありとわかる言い方だった。枕になってくれっていうか、もっと悪くいえば、踏み台にさせてくれっていうか。おとーさんのこととか、理想に届かない成績とか、自分の進路とか、色々悩んでるらしいけれどさ……。それは、悩んでるのわかるよ? 出来ることなら力になってあげたいとも、思うけれど。そんな風に一方的に必要にされても、あたしとしては困るんだ……助けアイとか頼りアイっていうより、もたれアイっていうか……。こっちはそんなカンケー、求めてない」
支離滅裂だぜ。
幼馴染のよしみ、解決できる問題だったら解決してやりたいところだが……いかんせん、僕には経験不足だ。何でこんな話になったんだろうなーと思いつつ、長々として、だらだらとした、愚痴のような話を延々と聞き続ける。その後、いい加減良いだろうというところで、僕は口を開いた。
「いや、けどさ。彼女居ない暦イコール年齢の僕としては、その悩みを解決出来ないんじゃないかと思う」
「嘘」
「おぅ? え、倦怠期とかじゃ? えっと、無理だって」
「ううん。彼女居ない暦イコール年齢じゃないっしょ」
「は?」
ちょっとムキになったように、卯生が訂正した。ちょっと待て……何をいい出すんだ。知らない間に僕に彼女が出来ていたのか? 脳内彼女か? そこまで病んでないぞ? あるいは記憶喪失か? 僕ってそんな美味しい役どころだったか?
ハテナマークが頭上に浮かびまくる僕に、コイツは言う。
「付き合ってるじゃん。一度。あたしと」
「……ああ。って、おい。小二だぜ!? 数に入れるのか!?」
「入れるもん」
「もんじゃねぇよ。それにしたってお前……七・八歳……? 九年も前じゃねぇかよ」
「あたしは覚えてるからねー。ファーストキス奪ってったじゃーん。ちゅっちゅって」
「ちゅっちゅ、でもねぇよ! 高校生になってそんな恥ずかしいオノマトペはねぇよ! ってかファーストだったのか……僕のファーストはお母さんとだぜ……?」
「きーきってドーテー? だよね?」
「どさくさにまぎれて何を聞いてやがる。しかも念を押すな! そうだよ、察しろ!」
畜生。てめぇはどうなんだ、てめぇは。
「あたしも処女だし」
処女なんですか!? 潔白ですか!
「何ならあげよーか。童貞のまま自殺しちゃうのも、処女のまま死んじゃうのも、負け犬っぽくって嫌だもんね……」
しかもくれるのか!? 自殺を選んで良かったよ!
ふっとか、悟った女の目で俯き勝ちにこっち見てるよ!
幼馴染ルートにこんなドッキリが!? 落ち着け! 絶対オチが付く!
「ま、嘘だけどね」
「やっぱりな!」
「せーせにもうあげちゃったよー」
「だろうと思ったぜ!」
く、女に泣かされそうになってる! それこそ小学校以来だぜ!
「しかも、ナマで中出し経験もあるぜ」
「ちくしょー! ……って、おいおい。それはやばいんじゃないのか? ハラんだりしたらまずいだろ」
「うん。妊娠するかなーって思ったけれど、しなかった」
舌を軽く出す卯生。
ここまでオチが付くのか。
お互い変なテンションから、回復しつつあった。
「ふーん……」
「勿論、この年齢で子供が欲しかったわけじゃないよ。デキちゃったら困ったとは思う。けれど、どうにかなったとも思うね。それを乗り越えられるくらいには、せーせを愛してるし。人生のスリルだよ。スパイスだよ。ギャンブル、かな」
「ギャンブルね」
さっきの例に例えるのなら、今までにない方向へ足を踏み出してみたかった、って感じか。
わからないでもない。わからないでもなく、だからこそ。
「だからこそ、か」
「だからこそ、だね。踏みつけるような言い方されたのが、嫌でさー。綻びができちゃったら、脆いもんだね。そもそも、そういうギャンブルに手を出しちゃってる時点で、あたしは――」
保呂羽卯生は。
ある意味、幼馴染以上に理解者だった。
「だから、止める資格や権利が無いとか、一緒に自殺案を考えるとか、言ったのか」
「かもね」
「いっておくが……」
ちょっと大きめに息を吐いて、吸って。
「最初には死ぬなよ。てめぇ」
「あ、自殺する事自体は止めないんだ」
「こっちにこそ、止める資格も権利も無いだろ。理由も無い」
死人に口なしだ。自分でいうのもなんだけれどね。
「けれど、考えろよ。考えて、考えろ。考えないで死ぬのは、惨めだ」
「――ん。あんがと」
目を瞑って、噛み締めるようにはにかむように、僕の幼馴染兼共謀者は頷いた。
僕は鞄を持って、席を立つ。
悩んでいるうちに、あるいは雑談をしているうちに、結構な時間が経っていた。
「今日はこれで帰るか」
「明日はビブの日?」
「土曜だから、そうだな。ついでに掃除当番だ」
「じゃ、明日は告げないでおいてあげよう」
「……さんきゅ」
誰にかは、訊くまでもない。
美術部員は二名しか居ないのだ。
卯生も立ち上がったところで、ちょっと尋ねてみた。
「ん? 天文部の活動日は?」
「まんでーふらいでー」
「活動しろよ幽霊部員」
「『幽霊部』部員にいわれとぉないですわ」
「は、自殺は僕らにお似合いだな」
皮肉げにそう言って、喫茶店を後にした。
あくまで日常の延長線上で、今日と同じように、明日も一歩を踏み出すのだろう。
今のところは。
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