第35話

 プールで遊ぶのなんていつぶりだろうか。

 目の前に行き交う水着の人々を見ながら俺は考えた。


 小夜子、灯里とともに、俺は県内某所の室内プールを訪れていた。

 ウォータースライダーや流れるプールもある大型施設で、今話題の人気スポットだ。

 夏休みということもあってか、施設内は俺たちと同年代くらいの若者で溢れかえっていた。


「お待たせ、太陽ー!」


 既に着替えを終えた俺が女子二人を待っていると、背後から声をかけられた。

 この声は灯里だ。

 振り向くとそこには、真っ赤なビキニを身につけた幼馴染みの姿があった。


「どう、可愛いでしょー?」

「……おう」

「いや、全然見てないじゃん!? ちゃんと見て褒めてくれないと嬉しくないんだけど!?」


 そう言われても、目のやり場に困る。

 ただの幼馴染みとは言っても、ビキニ姿だとなかなか直視できないものだ。

 胸の谷間とか見えちゃってるし……。


「ほら、小夜子ちゃんも隠れてないで出てきなよー」


 灯里が小夜子を呼ぶ。

 どこに隠れているのか一瞬分からなかったが、プールサイドに置かれた観葉植物の後ろで、わずかに人影が動くのが見えた。

 あの小柄なシルエットは間違いなく俺の後輩だ。


「うう……この水着、恥ずかしいんですけど……」


 おずおずと出てきた小夜子は、白いビキニを身にまとっていた。

 すらりと細い手足を惜しげもなく晒している。

 胸元は、まあ……灯里に比べれば寂しいが、それでも控えめな膨らみを確認することができる。

 薄布一枚だけで隠されている後輩の体を目の前にして、俺はつい彼女をジロジロと見てしまった。


「せ、先輩、見すぎです……」

「ごめん」


 見すぎだったのは事実なので、俺は素直に謝った。


「それくらい小夜子ちゃんの水着姿が魅力的だってことだよー。いぇいっ」


 灯里がそう言うと、小夜子の顔がみるみるうちに赤くなった。

 そんな恥ずかしがり屋なところも含めて、俺の後輩はとても可愛い。


「ま、そんなことはいいから。泳ごうよ、太陽、小夜子ちゃん!」


 灯里が俺と小夜子の背中を押す。

 こういう時に、ぐいぐい引っ張ってくれる灯里の存在はとてもありがたい。

 彼女がいなければ、俺は水着姿の後輩を目の前にして変に緊張してしまっていたことだろう。

 そんなことを思っていると小夜子が、


「わわっ、背中は押さないでくださいっ」


 と慌てた様子で言った。


「何で? 小夜子ちゃん、背中を触られるの嫌だった?」

「いえ……あの、ビキニの紐をあんまり触られると、その……」

「ああ、紐がほどけちゃうかもしれないもんねー」

「あ、あんまりハッキリ言わないでくださいっ」

「ポロリしないように気をつけてね、いぇいっ」

「わ、わかってますよ! うぅ……この水着、デザインが好きで買ったけど、ちょっとサイズが大きかったかな……」


 ……おいおい、ハプニングを期待してしまうような話が聞こえてきたぞ。

 小夜子がバニーガールのコスプレをしたときに起きなかったハプニングが、今日起きるのではないか。


 そんな微かな期待を胸に抱きながら、俺はプールへと向かった。

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