第23話

「なるほど、全くわからん」


 小説の書き方を検索し始めて数分後、俺は頭を抱えてうなだれていた。

 検索すれば小説講座のようなサイトはたくさんヒットする。

 内容にざっと目を通してみたのだが、俺にとっては難しいことだらけだったのだ。


 文章作法についての解説はまだ分かる。

 だが「誰にも負けない作品のウリを考えよう!」とか「自分だけの特別な体験を書こう」というアドバイスに対してはこう言いたい。

 そんなものが思いつくのだったら、もうとっくに書いている、と。


「あーあ、平凡な高校生の俺には平凡な話しか書けないよなあ……」

「先輩ってそんなに平凡ですかね?」

「……」


 平凡以下だとでも言いたいのだろうか。

 そう思って小夜子の方を見ると、彼女は熱心にスマホとにらめっこしていた。


「随分真剣に調べてるな」

「はい! もうすぐダンジョンのボスが倒せそうなんです!」

「パズルゲームやってんじゃねーよ!」


 小夜子は某人気ソーシャルゲームで遊んでいた。

 ちょっとくらいは小説について調べて欲しかった。

 そこまで文字が嫌いか。


「私が小説を書けるわけないじゃないですか。先輩にお任せしますよ」

「いや、俺だって書けそうにないよ」


 俺は深いため息をついた。

 ただ、元はと言えばこの状況は、俺が山之口さんを怒らせたから招いたものだ。

 自分でやったことの責任は自分で取らなければならないとは思う。 


「俺が小説を書くなんて、考えたこともなかったなあ……」

「先輩のことだから、妄想しているストーリーとかあるんじゃないですか?」

「妄想?」

「はい。教室に乱入したテロリストを倒したり、文化祭のバンド演奏でギターをかき鳴らしたり」

「結構オールドスタイルな妄想だなあ」

「そうですか?」

「一昔前の中学生が考えていそうなことだと思う」

「えーっ!? 文化祭でバンドなんて、絶対楽しいじゃないですか」

「いやあ……俺にとってはリアリティがなさすぎてな……」


 バンド演奏をするとなれば、メンバーを集めなければならない。

 友達が作れない俺にそんなことができるはずがないだろう。

 それに、ギターのようなイケてる楽器が俺に似合うわけがない。


「妄想なんですから、そこはリアリティがなくてもいいと思いますけど」

「いやー、変なところで真面目に考えちゃってな」

「……小説を書くのに向いてなさそうですね」

「……そうだな」


 小説は空想の物語を紡ぐものだ。

 俺が小説を書いたなら「いや、このストーリーにはリアリティがない」なんて考えてしまいそうである。

 それではいつまでも作品は完成しないだろう。


「どうします? 次に千景さんが来たとき」

「うーん……上手いこと言ってごまかせないかな。まだ執筆途中だから見せられない、とか言って」

「まあ……ごまかすのは簡単そうですね。あの人、騙しやすいですし」

「二学年上の先輩に対して結構酷いこと言うなあ」

「何とかなりますよ、きっと!」

「……うん、そうだな! 何とかなるな!」


 自分たちには恐らく小説を書く能力が備わっていない。

 そう考えた俺たちは、問題をうやむやにして先延ばしにすることにした。


 まあ、気が向いたときにちょっとずつ小説を書いていけば、いずれ完成するんじゃないだろうか。

 俺はそんなふうに、ぼんやりと楽観的に考えていたのだ。


 後にそんな甘い考えのせいですごく苦労することになるのだが、それはまだ先の話。

 このときの俺たちにとっては、まだ知るよしもないのだった。

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