第22話

「小説を書きましょう!」


 風紀委員の山之口さんが来てから数日後。

 小夜子は部室に入ってくるなり、そう宣言した。


「急にどうした?」

「先輩、文芸部員なんですから、私たちは小説を書くべきですよ!」

「小夜子はまず読むことから始めたほうがいいと思うぞ」


 やけにハイテンションになっている後輩を諌めながら俺は言う。

 いったいどうして急に小説を書こうだなんて思ったのだろうか。


「私たちの部活は、千景さんに目をつけられたと思うんです」

「ああ……うん」


 誤解ではあるのだが、俺は彼女を襲おうとしたと思われている。

 彼女から嫌われていることは間違いないだろう。


「うちの学校の風紀委員は怖いですよ。彼らに潰された部活や同好会も多いそうです」

「そうなのか?」

「はい。麻雀博打同好会、喫煙愛好会、パチンコ同好会などです」

「潰されて当然だろ。と言うかそんな同好会がうちの学校にあったのかよ……」


 物騒な学校である。

 麻雀で金を賭けることは法律違反だし、タバコやパチンコは言うまでもなく大人になってからするものだ。


「とにかく、私たちもこのまま変な部活だと思われていたら、潰される危険があるということです」

「ほう」

「千景さんは必ずまたやってきます。そのときに、文芸部が健全な部活だとアピールするべきだと思うんです」

「なるほど、それで小説を書くべきだと」

「はい。この前、千景さんに言ったじゃないですか。小説を書くためにバニーガールの格好をしていたって」

「ああ……そうだったな」


 山之口さんが部室に来たとき、俺たちが小説を全く書いていないと知ったらどうなるか。

 あの時のコスプレや小説のための取材なんかじゃなかったということがバレてしまうだろう。

 そうなれば、俺は私欲のために後輩にバニーガールの衣装を着せていた変態野郎だということになってしまう。


「先輩、文芸部を守るためにも小説を書きましょう!」


 小夜子が懇願するように言う。

 文芸部を守るためか……。

 後輩に話しかけられたり幼馴染みが乱入して来たりして、全く読書に集中できない環境のこの部活。

 それなのに、不思議と居心地がいい。

 俺は後輩と二人で過ごすこの場所を、絶対に失いたくない。


「よし、書くか!」

「はい!」


 俺たちは目を合わせ、力強く言った。

 ……しかし数秒後、ふと疑問が頭に浮かぶ。


「小説ってどうやって書くんだ?」

「さあ……? 先輩、よく読んでるんですから書けるでしょう?」

「いや、無理だろ。あれって原稿用紙に書くの?」

「知りませんって、パソコンとか使うんじゃないですか」


 部室を見回してみても、原稿用紙もパソコンもない。

 どうやらこの空間には執筆するための道具が存在しないようだ。


「俺たち以外の部員も、誰も書かないからなあ……」

「残念な部活ですね」


 この部活って、風紀委員に潰された方が学校のためになるんじゃ……という考えが一瞬頭によぎる。

 いや、しかし!

 今まで何もしていなかったのなら、これから始めればいいのだ。


「小夜子、とりあえず小説の書き方から調べよう」

「……あはは、先は長そうですね。でも、頑張りましょうか」


 俺たちはスマホを取り出し、執筆手順を調べることにした。

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