第18話
それから、小夜子は色々な衣装を着てくれた。
ナース、チアガール、警察官の制服などなど。
どのコスプレも素晴らしくて、俺はスマホで写真を撮りまくった。
普段の俺には写真を撮るという習慣がないので、今や画像フォルダのほとんどが小夜子の写真である。
誰かに見られたらドン引きされること間違いなしだ。
俺はそんなことを考えながら部室の前で扉に寄りかかっていた。
彼女が次の衣装に着替えるのをそこで待っていたのだ。
しばらくすると、扉が数センチだけ開き、隙間から小夜子が目を覗かせる。
「せ、せんぱーい……やっぱりこの衣装、どうかと思うんですけど……」
おずおずとした声だ。
最後の衣装を着ることに対して、彼女はかなりの時間渋っていた。
俺がどうしても着てほしいと頼み込んでようやく了承したのだが、やはり姿を見せるのは恥ずかしいのだろう。
「大丈夫だ! 見せてくれ!」
「いや、私が大丈夫じゃないんですけど」
「俺が言うんだから絶対に大丈夫だ! 俺を信じろ!」
「意味わかんないですって! 無理やり開けようとしないでください!」
俺たちは互いに、部室の中と外でドアノブを握って扉を押し合っていた。
部屋に押し入ろうとする俺と、部屋に入れまいとする小夜子。
しばらく膠着状態が続いたが、さすがに腕力は俺の方が強い。
小柄な後輩は為すすべもなく俺の侵入を許し、扉の開く勢いに押されて尻餅をついた。
「いたたっ……」
床にぺたんと座り込んだまま、小夜子が小さくこぼす。
俺は彼女を見下ろす体勢のまましばらく硬直していた。
な、なんて魅力的なコスプレ姿なんだ……。
胸元の開いた漆黒のレオタード。
お尻についたモコモコした白い飾り。
ウサギの耳を模したヘアバンド。
そう、彼女はバニーガールの衣装に身を包んでいた。
「わわっ、先輩! あんまり見ちゃダメですっ!」
小夜子は両手で胸の辺りを隠すようにした。
顔を赤らめて、訝しむような目で俺を見上げる。
あまりの可愛らしさに、俺は無意識のうちにスマホのカメラを構えた。
――カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャッ!
「わーっ!? な、何で撮るんですかーっ!?」
「ん、撮ってるかな?」
「すっごいカシャカシャ音が鳴ってるじゃないですか!」
「ああ、ほんとだな。完全に無意識だったわ」
「連写しすぎですよ! 先輩は週刊誌の記者か何かですか!?」
後輩が小柄な体をさらに小さくして怯えてしまったので、俺は撮影を切り上げた。
そして彼女に素直な言葉をかける。
「ごめんごめん。あまりに可愛いからつい撮っちゃった」
「もうっ、先輩は酷いです……」
「小夜子はウサギ好きだし、バニーガール衣装も着てみたかっただろ?」
「私自身がウサギになりたいわけじゃないですから」
小夜子はぷいっとそっぽを向いてしまった。
彼女の視線が他所へ向いたのをいいことに、俺はすかさず彼女の全身を凝視する。
バニーガールは生地の面積が少ない。
そのせいで、彼女は真っ白な肢体を惜しげもなく晒している。
特に目を引かれるのは大胆に開いた胸元だ。
「先輩……どこ見てるんですか?」
「えっ? 俺は胸元なんて見てないぞ」
「嘘が下手すぎます!」
小夜子は両腕で抱え込むようにして自分の胸を隠した。
ただ、必死に隠された方がより扇情的に感じるのが男の性だ。
本当に、異常なほどに彼女は胸元を気にして隠している。
そう不思議に思った俺は、一つの事実に気がついた。
小夜子はブラをつけていない。
バニーガールの衣装から肩紐のようなものが見えていないので、きっとそうだ。
なるほど、それで胸元をずっと気にしていたのか……。
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
彼女の衣装はサイズが合っていないのか、ちょっとしたことでずり落ちてしまいそうだ。
これはもしかすると、とんでもないハプニングが起きるのではないか。
そんな期待が俺の胸に満ちてきていた。
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