第17話

「ハァハァ……さあ、早くメイド以外のコスプレ姿を見せてくれ……」

「先輩、キモいです」

「ぐはっ」


 俺は心に深い傷を負った。

 こう見えても俺はメンタルが弱いので、ストレートに罵るのはやめていただきたい。

 キモいだなんて、最も言われたくない言葉の一つだ。


「せ、せんぱーい? そんなに悲しい顔しなくても……」

「うん……」

「ごめんなさい、傷つけるつもりはなかったんです。ただ、どうしても先輩のにやけた顔が変質者のように思えてしまって……」

「分かったから追い打ちはしないでくれ」


 変質者扱いは本当に傷つく。

 俺は一つ咳払いをすると、気持ちを切り替えて小夜子に尋ねた。


「で、どんな衣装を持ってきたんだ?」

「色々ありますよ。えーっと……」


 小夜子は衣装の入った紙袋を机の上に置いて、中身を取り出し始める。

 出てきたのはチアリーダー、ナース、警察官、女子高生、バニーガールなどになりきれる衣装の数々だった。


「バリエーションはすごいけど、少し安っぽいな」

「そうですね。あんまり良い生地じゃないと思います」

「ドン・キホーテで売ってるパーティグッズみだいだ」


 俺は衣装の数々を実際に触ってみた。

 布地も薄く、あまりお金がかかっていないような印象だ。

 高校の部活なんて活動費がそれほど多いわけではないし、演劇部も高価なものは買えないということなのだろう。


「ちなみに私が着てみたいのはー、コレです!」


 小夜子が指差したのは、女子高生風のセーラー服だった。


「いやいやいや、女子高生が女子高生風のコスプレをしてどうするんだよ」

「だってセーラー服って憧れなんですもん。うちの学校はブレザーですし」

「セーラー服もブレザーも同じだろ」

「何もかもが違うじゃないですか。先輩だって学ランを着てみたいって思うでしょう?」

「いや、全く」

「はぁー……。これだからファッションの分からない人は……」


 後輩が呆れたように目を細める。


「女子にとって制服は超重要ポイントですよ。制服で学校を選ぶ人だっているくらいですから」

「理解に苦しむな」

「私だって今の学校を選んだ理由の一つは、制服が可愛いからですよ」

「じゃあセーラー服のコスプレをする必要ないじゃん」

「セーラー服は別腹です!」


 そう言って小夜子は机の上のセーラー服を手に取る。


「さっそく着てみますね。着替えるんで先輩は……」

「おう、俺のことは気にせず着替えていいぞ!」

「外に出ていてください」

「分かった、目をつぶっておこう」

「外に出ていてください」

「仕方ないな、後ろを向いておくとするか」

「さっさと出てってください!!」


 俺は部室の外に放り出された。

 まったく、手荒いことをする後輩である。


 それにしても、セーラー服以外にも色々な衣装があったな。

 チアリーダーのユニフォームはスカートが短かったし、バニーガールは言うまでもなく扇情的だし……。

 やっぱり、コスプレって素晴らしいな!

 後でそれらの衣装も着てもらおう。


 俺が煩悩にまみれつつ待ち始めてから、数分後。

 部室の中から「もう入っていいですよー」という声が聞こえた。


 俺が扉を開くと、そこにはとんでもない美少女が立っていた。


「なんだ、よく見たら小夜子か。知らない美少女かと思った」

「当たり前でしょう……何言ってるんですか」


 彼女はセーラー服に着替えただけではなく、髪を結んでおさげにしていた。

 服装と髪型が変わったことで、いつもと違った印象を受ける。


「田舎の女子中学生って感じで可愛いよ」

「いやいや、私は高校生なんですけど!? 悪かったですね、背が低くて」

「ははは、ごめんごめん」

「あっ、でも可愛いって言ってくれて……えっと、ありがとうございます」


 小夜子は顔を赤らめながらぼそぼそと呟いた。

 その様子がとても可愛くて、俺はもっと彼女のコスプレ姿を見てみたいと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る