第15話
俺たちは大勢の人で賑わう駅ビルの中を見て回った。
本屋、アクセサリーショップ、ゲームコーナー、などなど。
小夜子と他愛もない話をしながら歩くことは純粋に楽しい。
時が経つのも忘れて様々な店を巡っていると、あっという間に小夜子の家の門限が近づいてきた。
もうそろそろ解散しようかと話していたとき、小さな雑貨屋が目に入った。
「先輩、可愛いものがたくさん売ってますよ」
小夜子が子どものように目をキラキラさせて言う。
この雑貨屋のオリジナルなのか、デフォルメされたうさぎのキャラクターのグッズが多く売られていた。
「うさぎ! うさぎ! 可愛い!」
「小夜子、いつも以上に語彙が貧弱になってるぞ」
「うさぎ!」
「聞いてないな……」
「先輩、記念に何か買いましょうよ。うさぎ」
「今日は何の記念日でもないぞ」
「いいじゃないですか! うさぎ!」
「分かったから、語尾にうさぎって付けるのはやめてくれ」
小夜子がこれほどうさぎ好きだったとは知らなかった。
彼女の勢いに押されて、なぜか記念品を買う流れになっている。
「先輩とペアで使えるものがいいなあ。お茶碗とかどうですか?」
「俺たちは夫婦かよ」
「夫婦だなんて……もう、先輩ったら気が早いですねー……」
「はいはい。別のもので頼む」
「じゃあ、ペアリングで」
「それじゃカップルじゃねーか」
俺がツッコミを入れると、小夜子はくすくすと笑う。
こういう会話は少しくすぐったい気持ちになる。
カップルだとか夫婦だとか、そういう単語が出てくる会話に俺は慣れていない。
「部室で使えるものがいいですかねー」
「そうなると限られてくるな。文房具とか」
「あっ、このマグカップはどうですか? すっごく可愛いですよ!」
小夜子が手に取ったのは、白いうさぎが描かれた二つのカップだった。
男が使うにはファンシーすぎる気もするが、デザイン自体は好きだ。
俺は後輩のセンスの良さにちょっとだけ感心した。
「デザインはいいと思うけど、部室でマグカップって使う機会がないだろ?」
「使いますよ。ちょうど部室でコーヒーを淹れたかったんです」
「部室でコーヒー?」
「はい。電気ポットを使えばガスも不要ですし……」
「いやいやいや、それって校則違反だろ」
「そうですか?」
「部活に不要なものを持ち込むんだから、ダメだと思うぞ」
「でも、喫茶店で読書をしながらコーヒーを飲む人っているでしょう? 文芸部でコーヒーを淹れても問題ないかと……」
「本を読まないヤツが言うなよ」
「えへへー」
一応、先輩としての立場があるので校則違反だと指摘はした。
だがしかし……部室で美味しいコーヒーを飲めるのは魅力的だ。
校則なんて多少破ったとしても、バレなきゃ問題ないし……。
「買っちゃうか、マグカップ。……記念だしな」
俺は商品を手に取ると、レジへ持っていく。
すぐ後ろから嬉しそうな後輩がついてきた。
「やった、部室でコーヒーですね! 家からコーヒーメーカーとオススメの豆を持ってきます!」
「思ったより本格的だな」
「インスタントでは出せない味ですよー」
小夜子は嬉しそうにはにかむ。
彼女が淹れてくれるコーヒーを想像すると、休み明けに部室へ行くのが楽しみになった。
お揃いのマグカップを購入した後、俺たちはそれぞれ帰路についた。
学校以外で後輩に会うのも楽しいものだな……。
帰宅してからも俺は、ずっとそんなことを考えていた。
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