第14話

 これはデートなのだろうか。

 休日に女の子と二人で歩いているのだから、そう呼んでもいいのだろう。

 デートだなんて、一生縁がないと思っていたイベントだ。

 当然、人生で初めての経験である。

 相手がよく知った後輩であっても、妙にそわそわした気持ちになってしまう。

 ふと隣りを見ると、身長差のせいでかなり低い位置に小夜子の顔があった。

 

「先輩、じっと見つめられると恥ずかしいんですけどー」


 彼女は困ったようにに視線をさまよわせる。

 その仕草がとても可愛らしい。


「どこ行こっか」

「そうですねー。先輩はいつもどんな店に行くんですか」

「本屋」

「即答ですね!?」

「他に行く場所もないからな。ファッションもよく分からないし」


 俺は周囲を見回しながら言う。

 先ほどのスイーツ店からエスカレーターで下り、俺たちは駅ビルの中のファッションショップの多いエリアに来ていた。

 正直、興味を引かれる店は全くない。


「先輩もオシャレすればもっとカッコよくなりますよ。コーディネートしてあげましょうか?」

「いや、いらない」

「また即答するー」

「高い服とか見るとさ、ラノベに換算しちゃうんだよ。この服でラノベ10冊買えるなーって」

「あーあ、重症ですね」

「病気みたいに言わないでくれ」


 俺が不満を言うと、小夜子はクスクス笑った。

 いつも部室でしているのと変わらない会話だ。

 普段と違うのは彼女の服装くらいなのに、なぜか小夜子が一段と可愛い女の子に見えてくる。


 ファッションが変われば、相手に与える印象もぐっと変わるということなのかもしれない。

 俺は高校二年生にして、初めてその事実に気がついた。


「どうしたんですかー、先輩?」

「いや、ファッションってすごい大事だなーと思って」

「今さら気づいたんですか!?」

「うん……遅いよな」

「友達がいないことの弊害ですねー」

「うるせーよ」


 さすがに小夜子に見惚れていて気がついたとは言えなかった。

 とりあえず、もし次に彼女と外出する機会があったなら、俺も服装に気をつかおうと決めた。


 しばらく行くあてもなく歩いていると、女性向けファッション店の多いエリアに入った。


「小夜子、見たい服とかあるか?」

「うーん、今日は特にないですけど……あっ、それよりもっ!」


 小夜子は立ち止まると、目を輝かせて俺を上目遣いで見る。


「先輩は女の子のファッションだと、どういうのが好きか教えてください!」

「えっ、俺の好み?」

「はい! 参考にしたいので」

「そうだなあ……ネコミミでメイド服かなー」

「コスプレの話じゃないですよ!?」

「冗談だって」

「もうー」


 小夜子は不満そうに唇をとがらせた。

 本音で俺の好みを言えば、ちょうど小夜子が着ているような清楚系の服が好きだ。

 でも、それを口にするのは何だかお世辞みたいでわざとらしいし、恥ずかしくもある。

 だから俺はファッションの話題を切り上げることにした。


「小夜子、まだ時間あるか? よかったら別のフロアも見て回ろう」

「ええ、いいですよ」


 彼女がこくりと頷く。

 このデート(と呼んでいいのか分からない時間)は、もう少し続きそうだった。

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