第13話
「なあ、これさあ……絶対食べきれないよな」
俺は巨大なクリームの山をスプーンで取り分けながら言う。
先ほどから三人でしきりに食べ続けていうのだが、いっこうに量が減らない。
底に入っているというパンケーキが見える気配は皆無だ。
「先輩ダメですよ、出されたものはちゃんと食べないと」
小夜子はそう言って俺をたしなめるが、彼女も先ほどからしかめっ面をしている。
元々甘いものが苦手らしいから仕方がない。
「これ、残してもバチは当たらない量だろ」
「そんなのマナー違反ですよ」
「……小夜子ってそういうところ、厳しいよな」
「両親からそうしつけられましたから」
「ふーん」
「小夜子ちゃんって育ちが良さそうだよねー! いぇいっ!」
「……」
突然会話に入ってきた灯里に、俺と小夜子は白い目を向けた。
誰のせいでこんな罰ゲームみたいなモノを食べているか分かっているのだろうか。
俺たちの気も知らず、灯里はスイーツを撮影するだけ撮影して、ほとんど口をつけていないままだ。
「灯里さん、もっと食べたらどうなんですか?」
「えー、太りそうじゃん。そんな脂肪のかたまり」
「自分で注文したんじゃないですか」
「インスタに上げるのが目的なんだから、それでいいじゃん。原宿ではみんなやってるでしょ?」
「行ったことないから知りません!」
「そうなんだー。アタシは三回あるよー」
「どうでもいいです!」
女子二人が口論を始めてしまった。
食のマナーにはうるさい小夜子と、ノリだけで生きている灯里。
相性が悪すぎる。
ちなみに、このウルトラ・エクストリーム・パンケーキの代金は灯里が支払うと申し出た
自分で注文したのだから当然と言えば当然なのだが、普通の高校生にとっては痛い出費だ。
それでも灯里が平気な顔をしているのは、彼女の家がお金持ちだからである。
父親から溺愛されている灯里は、お小遣いをたっぷりもらっているらしい。
まったく、羨ましい話だ。
「アタシがお金を出すんだから、残してもいいでしょー?」
「お金の問題じゃないです。食べ物を粗末にしちゃいけませんよ」
「でもこれ、総重量が10キロあるんだよ?」
「10キロ!? スイーツで10キロ!? 馬鹿じゃないんですかこの商品!?」
「ちなみにカロリーに換算するとー……」
「あー! あー! 聞きたくありませんっ」
小夜子は頭を抱えてしまった。
食べ物を残したくないけれど、食べ過ぎて太りたくもない。
二つの思いの間で葛藤しているようだ。
灯里はその様子をしばらく見つめていたのだが、突然おどけた調子でこう言った。
「なーんて、冗談冗談。ちゃんと残さずに済む方法を考えてあるから」
「えっ?」
「小夜子ちゃんの困ってる様子が可愛いから、ついイジワルしちゃった。後はアタシにまかせて」
「どういうことですか?」
「さっき友達を呼んだの。みんなでシェアして食べるから、小夜子ちゃんたちはもういいよ」
そう言って、灯里はスマホの画面を見せる。
どうやら、メッセージアプリで友人たちに「無料でスイーツが食べられるよ」と声をかけたらしい。
灯里の友人たちが残ったウルトラ・エクストリーム・パンケーキを平らげてくれるということか……。
俺たちはスイーツを取り分けて食べていたから直接口をつけてはいないのだが、残りものを食べさせるのはさすがに申し訳ない。
俺と小夜子はそう言ったのだが、灯里は「そんな細かいことは気にしなくていい」と笑っていた。
そして灯里は俺に聞こえないように、小さな声で小夜子に耳打ちをする。
「小夜子ちゃん、今日はいろいろゴメンね。代わりに、今から太陽と二人でデートを楽しんできて」
「ふえっ!?」
「幼馴染みだから分かるけど、太陽は案外いい男だよ。頑張ってね」
「は、はい……」
話し終えた小夜子が、手をもじもじさせながら俺を上目遣いで見る。
「先輩……灯里さんは別の友達が来るそうですし、このあと二人で遊びませんか?」
「お、おう……そうするか」
ぎこちなく話す俺たちのことを、灯里がにやけた顔でじっと見つめていた。
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