第12話
日曜日。
俺は待ち合わせ場所の駅前広場に到着した。
周囲には俺と同じように誰かを待っている若者が集まっていて、すごく混雑している。
人ごみが苦手な俺は来たことを少し後悔しつつ思う。
灯里と休みの日に外出するのは何年ぶりだろうか、と。
彼女とは家が近所なので顔を合わせる機会は多いが、わざわざ一緒に出かけることは滅多にない。
中学生になった頃から自然と距離が離れていった。
幼馴染みとはいえ、時が経つごとに人と人との関係性は変化していくものである。
そんなことを考えながら立ち尽くしていると、人ごみの中にいた灯里と目が合った。
「あっ、太陽みっけ! いぇいっ」
「おう……ギャルギャルしい服だな」
「何それーどういう意味?」
「ギャルっぽくて気合が入ってるってことだよ」
「よく分かんないけど、イケてるってことでいいんだよね?」
「……うん、まあ」
「やった! じゃあ、次は小夜子ちゃんのことも褒めてあげなよー。ほら、出てきなって」
「おお、いたのか」
灯里の後ろから、ひょっこりと小夜子が現れた。
背が小さいから気づかなかったけれど、既に合流していたようだ。
ギャル系の読者モデルみたいにバッチリ決めた灯里に対して、小夜子の服装はシンプルだった。
白いワンピースにさりげない首元のアクセサリー。
喋りさえしなければ可憐で清楚なお嬢様に見える……喋りさえしなければ、だが。
「……先輩、何か失礼なこと考えてません?」
「いや、全然」
「怪しいなあー」」
「ラノベのヒロインみたいでいいファッションだと思うぞ。田舎のひまわり畑に立たせたいくらいだ」
「よく分かんないんですけど」
「褒めてるんだよ。可愛いってことだ」
「ふーん……まあ、いいですけどー」
小夜子はぷいっと横を向いて会話を切り上げる。
その頬がうっすら赤く染まっていた。
「お二人さん、お熱いねえー。じゃあ、そろそろ行こっか」
灯里がニヤニヤしながら俺たちを見て言う。
そうだ、今日の目的は人気スイーツ店なのだった。
限定メニューを頼みたいので急ごうと言う灯里に先導されて、俺たちは店へと向かう。
店は駅ビルの最上階にあった。
俺たちは数分並んで待ったあとに、席に案内された。
「先輩、何を頼みます?」
「うーん……パンケーキ?」
「なんで疑問形なんですか」
「しょうがないだろ。こんな店、来たことないんだから」
「私もですよ。甘いもの苦手なんですから」
「ああ、そうだったな……」
じゃあ何で来たんだよという感じだが、小夜子は甘いものを食べないのだった。
それにしても、オシャレな店というのは居るだけでそわそわするものだ。
周りが上品そうな人だらけで、自分がとても場違いだという気がしてくる。
「なあ灯里、俺って浮いてるかな?」
「そだねー。あっ、店員さん! 注文お願いしまーすっ」
俺の質問はあっさりスルーされた。
と言うか、やっぱり浮いていたのか。
普通に傷つく。
「えーっと、ウルトラ・エクストリーム・パンケーキくださいっ」
灯里が注文した瞬間、なぜか店内が一瞬ざわついた。
俺と小夜子は不思議に思って顔を見合わせたのだが、数分後にその理由を知ることになった。
「こちらウルトラ・エクストリーム・パンケーキです。お待たせいたしました」
店員さんが持ってきたのは、ポリバケツほどの大きさの容器に入った生クリームの山だった。
……えっ? デカ盛りの店なの、ここ?
それに、一応パフェのように綺麗に生クリームが盛り付けられているのだが、パンケーキの要素はどこにもない。
甘いものが苦手な小夜子は見ただけで怯んでいるようだった。
「灯里さん……これ、パンケーキじゃないですよね?」
「底の方に一枚入ってるらしいよ」
「一枚!? このクリームの量に対してパンケーキ一枚!?」
「めっちゃインスタ映えするでしょ。いぇいっ」
灯里はパシャパシャと何枚か写真を撮ると、恐ろしいことを言った。
「さっ、これを三人で食べちゃおーっ!」
どうやら俺と小夜子は、ウルトラ・エクストリーム・パンケーキを完食するためだけに呼ばれたようだった。
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