第11話

 五月下旬。

 灯里が部室に来たときから、数週間が経っていた。


 あの日、小夜子が俺に対する好意を口走ったときには驚いたものだ。

 だが、それから数日後、


「先輩のことなんて、べ、別にすきじゃないでからねっ! 勘違いしないでくださいよねっ!」


 と、本人から弁明された。

 きっとそうだろうと思ってはいたけれど、安心したような、ちょっとだけ残念だったような気分になった。

 あと、ベタなツンデレヒロインみたいなセリフだなあと思った。


 とにかく、文芸部の活動はいつもと何一つ変わっていない。

 俺は相変わらずラノベを読むことに没頭し、小夜子は俺の邪魔をするように話しかけてくる日々が続いている。

 

「そう言えば灯里がさあ、一緒に遊びに行かないか誘ってきたんだよ」


 俺が幼馴染みの名前を挙げた瞬間、小夜子が露骨に嫌な顔をした。


「遊びに、ですか……?」

「うん」

「それってデートですよね? 先輩たちは幼馴染みとは言ってももう高校生なんですから、二人で遊びに出かけるなんて不健全ですよ。絶対に断るべきです!」

「ああ、いや、そうじゃなくてな。三人で遊びに行かないかって提案なんだ」

「えっ?」

「小夜子も一緒に行こうって誘いなんだけど、どうかな」

「私も、ですか」


 意外な提案だったようで、小夜子は目をぱちくりさせた。


「駅ビルの中に、新しく飲食店のフロアができるらしいんだよ」

「ああ、そう言えば……クラスの子たちがそんな話をしていたような……」

「東京で大人気のスイーツ店もできるから、灯里が行ってみたいんだってさ」

「はあ……スイーツですか」


 小夜子は素っ気ない返事をした。

 全く興味がなさそうである。

 その反応を見て、俺は意外だと感じた。


 なぜなら、東京のスイーツ店なんて、女子高生なら誰だって興味津々だと思っていたからだ。

 それに、俺たちが住んでいるのは地方都市だ。

 我々地方住民の多くは「東京で大人気」という文言に弱いものである。


「まあ、興味がないのなら無理は言わないけど」

「甘いものってそんなに好きじゃないんですよねー」

「ふーん、そうなんだ」

「灯里さんって友達も多そうだし、私が行かなくても他の人と行くんじゃないですか」

「確かにそうだな」

「じゃあこの計画は白紙ということで――」

「俺と灯里の二人だけで行ってくるよ」

「はぁっ!?」


 突如、小夜子がガタっと立ち上がった。 


「それじゃデートになっちゃうじゃないですか!!」

「いや、俺たちはただの幼馴染みだし、デートではないよ」

「二人で出かけたらデートですよ!」

「うーん……でも、せっかく誘ってくれたんだし……」

「あーもう! 分かりました、じゃあ私も行きます!」

「えっ、小夜子は甘いものが苦手なんじゃ……」

「いいんですっ!」


 小夜子が不機嫌そうにぴしゃりと言う。

 こうして、俺たちは三人で次の週末に出かけることになった。

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