第8話
「先輩、昨日はすいませんでした!」
目が合うと開口一番、小夜子はぺこりと頭を下げて謝ってきた。
彼女は少し俯いて話し続ける。
「先輩は私のことを守ろうとしてくれたのに、私、恥ずかしくなって逃げちゃって……」
「いや、いいんだよ。こっちこそゴメンな。……その、触っちゃって」
「なっ!? そ、そのことは忘れてくださいっ!」
小夜子は自分の胸を両手でぎゅっと抱くようにして庇った。
「もちろんだよ。忘れる忘れる」
「ホントですかー? 先輩はエッチだから信用できないなー」
イジワルな笑みを浮かべる後輩を見て、俺はほっと胸をなで下ろした。
よかった、いつも通りの彼女だ。
もう文芸部に来なくなるんじゃないかと思ってヒヤヒヤしていたが、それは杞憂だったようだ。
「二度とヘンなところ触っちゃダメですからね」
「分かってるよ」
「あと、私以外の女の子に対しても、エッチなことしちゃダメですよ?」
「ははは……そんな機会ないから」
俺が自嘲気味に言った、その時。
部室の扉が勢いよく開いた。
「太陽っ、遊びにきたよー! へーっ、ここが文芸部!?」
はずむような大きな声がキンキンと響く。
声の主を確認して、俺は思わずため息をつきそうになった。
うわぁ……一番来て欲しくないヤツが来てしまった。
絶対に部室には顔を出さないでくれって頼んでおいたのに……。
「
「太陽に会うために決まってんじゃーん! いぇいっ!」
この、やけにハイテンションな少女の名前は
彼女のことを一言で表すなら、今時のギャルだ。
ライトブラウンに染めた髪に、高校生らしからぬ濃い目の化粧。
どう見ても校則違反の、短すぎる制服のスカート。
普通に考えれば、俺とは到底縁のない人種ではあるのだが……。
「太陽は相変わらずテンション低いなー! ていっ」
灯里はそう言って俺のそばに寄ると、突然背中に飛びかかってきた。
俺は意図せず、彼女をおんぶするような格好になる。
「わわっ、やめろよ灯里」
「いいじゃん。アタシたちの仲なんだし」
「幼馴染みとは言っても、俺たちはもう高校生なんだぞ」
そう、灯里と俺は、幼稚園の頃からの幼馴染みなのだ。
家が近所の同級生ということで、自然と家族ぐるみの付き合いが始まり、はや十数年。
高校二年生になった今でも、灯里は俺に対して家族のような距離感で接してくる。
「な、なななななっ、何してるんですかーっ!?」
怒りをはらんだような叫び声を聞いて、密着していた俺と灯里の動きがぴたりと止まる。
声のした方を向くと、顔を真っ赤にした小夜子が立っていた。
「先輩、その人誰なんですか!? なんで仲良く喋ってるんですか!? っていうか密着してないで離れてくださいっ!」
早口でまくし立てる後輩を前に、俺と灯里は顔を見合わせる。
何だか、面倒なことが起きる予感がした。
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