第7話
「ラッキースケべとは簡潔に言えば、偶然エッチなシチュエーションに遭遇しちゃうことだ」
「偶然、ですか……?」
「そうだ。例えば、風で女の子のスカートがめくれたり、倒れた拍子におっぱいを触ったり、風呂場でばったり全裸のまま遭遇したり、
服だけ溶かす液体を浴びたり――」
「ちょ、ちょっと! ストップ! 先輩、ストーップ!」
俺が例を挙げるのを遮って、小夜子が叫ぶ。
彼女の顔は先ほどより一層赤くなっていた。
「な、何を言ってるんですか? これ、そんなにエッチな本なんですか!?」
小夜子は俺の持っているラノベを指差す。
そして、はっと何かに気がついた様子で慌てて言った。
「わ、私! ラノベのヒロインみたいになってあげるって言いましたけど……こういうことはしませんからね!?」
「いや、分かってるよ」
「うわぁ……先輩って、私にこんなエッチなことをしたいと思ってたんだあ……」
「思ってねーよ」
やれやれ、小夜子はすっかり自分自身とこの作品のヒロインを重ねて考えているようだ。
現実と虚構の区別がついていない人間の典型である。
一方で俺は、ラノベの世界と現実世界の違いはしっかりと理解している。
現実でエッチなシチュエーションに出会うこともなければ、美少女と関わる機会もないことはよくかっている。
だからこそせめてラノベの中では、美少女との恋愛を楽しみたいと思っているのだ。
「小夜子、俺はこの主人公みたいなことはしないよ」
「ふーん……」
「疑っている目だな」
「いえ……先輩は嘘をつかない人なんで、信じてあげます」
思ったより俺は信用されているようだった。
小夜子は一度大きく息を吐くと、俺の手からラノベをさっと抜き取った。
「私、この本は読まないんで、本棚に戻しておきますね」
「ああ、残念だけど仕方ないな」
「エッチなシーンさせなければ読むんですけどねー」
「嘘をつけ。どうせ読まないだろ」
「本当ですって」
そんな軽口を叩きながら、小夜子が背伸びをして本棚に本をしまおうとする。
と、次の瞬間。
本棚に乱雑に並べられていた書籍の一部が、ぐらりと崩れた。
「危ない!」
俺はとっさに叫ぶと、小夜子の上にかぶさるようにして、彼女をかばう。
ドサドサッと本の落ちる音がすると同時に、後頭部に鋭い痛みが走った。
本の角の部分が直撃したようだ。
「いたたた……」
「せ、先輩……」
「大丈夫か小夜子。怪我はないか?」
「あの、先輩……怪我はないんですけど、それより……」
「ん?」
「さ、触ってます……胸……」
「えっ!?」
慌てて視線を落とす。
すると、俺の右手が彼女の胸をしっかり掴んでしまっていた。
……それはもう、今まで体験したことのない柔らかさだった。
「せ、先輩……そこはダメ……ダメですっ」
「ご、ごめん!」
俺はすぐに手を離して謝った。
まさか小夜子の胸を揉んでしまうとは思っていなかった。
これは彼女に怒られることは必至、最悪の場合セクハラで訴えられるかもしれない。
俺はそんな覚悟をしつつ、彼女の反応を恐る恐るうかがう。
「ううううっ……先輩のエッチ! やっぱりラノベと同じようなことするんじゃないですか! もう知りませんっ!」
小夜子は恥ずかしさのあまり涙目になって叫ぶと、走って部室を出て行ってしまった。
「あっ、小夜子……」
俺の声が、一人になった部屋に虚しく響く。
事故とは言え、彼女のことを傷つけてしまった。
涙目になっていたし、もう小夜子はこの部室に来ないかもしれない。
ああ、可愛い後輩と過ごす放課後の時間も今日で最後で終わりか……。
そんなことを思いながら俺は帰路についた。
が、次の日。
俺がいつも通りに部室の扉を開くと、先客がいた。
そこにいたのは他でもない文芸部の後輩、月野小夜子だった。
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