第9話

「あれっ、太陽以外の子もいたんだ?」

「おう。文芸部の後輩で、名前は月野小夜子だよ」

「小夜子ちゃんって言うんだー。はじめまして、いぇいっ!」

「……どうも」


 ノリの軽い灯里に対して、小夜子は警戒しているようだった。

 彼女は俺の後ろに素早く隠れて、突然現れたギャルをじっと観察している。


「可愛い後輩ちゃんだねー。あっ、アタシのことはアカリンって呼んでいいからね」

「……いえ、結構です」

「背がちっちゃいねー。子犬みたいでかわいいっ」

「や、やめてくださいっ」


 灯里が小夜子の頭を撫でようとしたが、小夜子は俺を盾にするようにしてかわした。


「小夜子ちゃん、身長何センチ?」

「……150です」

「うっそだー、絶対サバ読んでるでしょ」

「……」

「アタシは165なんだけど、20センチくらい違うんじゃない?」

「そ、そんなに違いませんっ!」

「可愛いなぁー」


 どうやら俺の幼馴染みは、小柄な後輩のことをとても気に入ったらしい。

 ただ、その思いは一方通行のようで、小夜子は先ほどからとても迷惑そうな顔をしている。


「小夜子ちゃんみたいな子が妹に欲しかったな~。そうだ、アタシのこと灯里お姉ちゃんって呼んでみてよっ」

「呼びませんっ!」

「あははっ、かわいいー。太陽はいい後輩を持ったねー」

「ちょ、ちょっと待ってください! 訊きたいことがあるんですけど!?」


 小夜子は俺と灯里を交互に見ながら、問い詰めるように言った。


「どうして先輩のことを下の名前で呼んでいるんですか? 先輩も、どうしてそれを許してるんですか?」

「えー、だってアタシたち、幼馴染みだし」

「先輩! 私には名前で呼ばれるのが嫌だって言ってましたよね!?」

「あー……灯里には注意しても意味ないからなあ……」


 俺だって何度も名前で呼ばないでくれと頼んだ。

 だが、彼女はいっこうに聞く耳を持たなかったのだ。

 いつも「アタシたちの仲だし、名前で呼び合おーよ、いぇいっ!」などと軽い口調ではぐらかされて、俺の方が折れたという形だ。


「わ、私だって先輩のことを名前で呼びたいのに……」

「え? 何か言ったか?」

「何でもないです……」


 ぷいっとそっぽを向く後輩を見て、灯里がぽんと手を打って言った。


「あっ、もしかして小夜子ちゃんって、太陽のことが好きなの?」

「はっ?」

「ふぇっ!?」


 灯里のとんでもない発言を聞いた瞬間、俺と小夜子は同時に変な声を上げ、目を合わせる。

 後輩の顔は、びっくりするほど真っ赤に染まっていた。


「あっ、図星みたいだね! いぇーいっ!」


 固まってしまった俺と小夜子を尻目に、灯里は一人、嬉しそうに声を上げる。

 まったく、俺の幼馴染みはとんでもない爆弾を投下しれくれたものだ。


 これだから灯里には部室に来て欲しくなかったんだ。

 彼女はいつでも自由気ままに発言して、人間関係をかき乱すことが多いのだった。

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