第5話

「どう言う意味だ、ラノベのヒロインみたいになるって」


 俺が問うと、小夜子は一つ咳払いをしてから言った。


「ちょっと太陽! べつにアンタのことなんて好きじゃないんだからね!?」

「あ?」

「せ、先輩……。目が怖いです……」

「俺のことを名前で呼ぶな」

「そこなんですか……」

「いや、他にも引っかかる点はあったけどな」

「ツンデレ幼馴染みですよ! どうですか?」


 どうですか、と聞かれても困る。

 俺が呆れていると、後輩は得意げに胸を張ってさらに続けた。


「先輩って、こういう女の子が好きなんですよね?」

「……いや、全然」

「えーっ!?」

「むしろなぜそう思ったんだよ」

「ラノベのメインヒロインってこういう子なんでしょう? 私が読んだラノベではそうでしたもん」

「読んだのはあらすじだけだろ。それに、ラノベのヒロインはツンデレばかりじゃない」


 たしかにツンデレ幼馴染みの人気は根強く、メインヒロインに据えられることは多い。

 しかし、ライトノベルのキャラクターは多種多様だ。

 常にプロの作家たちは知恵を絞り、作品の華である様々なヒロインたちを生み出し続けているのだ。


 具体的には、ギャル、文学少女、引きこもり、小学生、教師、エルフ、宇宙人、などなど。

 挙げればキリがない。

 俺がそのことを手早く説明してやると小夜子はこう言った。


「すっごい早口でしゃべりますね」

「うるせーよ」

「……で、先輩はどんなキャラが好きなんですか?」

「ん? どんなキャラでも好きだな」


 ラノベのヒロインは一人一人に魅力がある。

 あらゆるキャラを愛しているというのが俺の本音なのだが、小夜子は納得できない様子だった。


「先輩って浮気性ですねー。誰でもいいんだー……」

「そんなこと言ってないだろ! 誰でもいいってわけじゃない」

「ふーん……じゃあ年上と年下だったらどっちが好きですか」


 口を尖らせながら訊いてくる後輩に、俺は素直に答える。


「そうだなー……どっちかと言えば、年下かな」


 その瞬間、小夜子の頬がかあっと赤くなった。


「せ、先輩っ。年下好きだったんですか!?」

「ん? まあ、どちらかと言うとな」

「年増の女よりも、同級生よりも、後輩が好きなんですね!?」

「後輩キャラな。あくまでラノベの中での話だから。あと、年増は酷い言い方だからやめなさい」

「へぇー後輩が好きなんだー」

「全く聞いてない……」


 なぜかは分からないが、小夜子は上機嫌になっていた。

 そして興奮した様子のまま、彼女はこう言った。


「私、先輩の趣味も理解したいんで、ラノベを読むことに挑戦してみます!」


 こうして本嫌いの後輩は、読書に挑戦することを宣言した。

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