第4話

 思い立ったが吉日だ。

 俺は早速本棚の前に立ち、初心者にオススメのライトノベルを厳選する。


「一般書籍でも活躍している作家の方が入りやすいか……いや、あえてラノベ感全開の異能バトル系から入るか……」

「あの、先輩……目が怖いです」


 真剣に本を吟味する俺を見て、小夜子はちょっと引いているようだった。

 だが、そんなことは関係ない。

 俺はこれから、本嫌いの少女をラノベファンに仕立て上げる。

 そして、読書に集中できる放課後の時間を取り戻すのだ――。


「決めた! 小夜子、まずはこの本を読んでみてくれ!」


 俺がびしっと突きつけた一冊の本を後輩は受け取る。

 そして中身をぱらぱらっとめくり、こう言った。


「はい、読み終わりました」


 ……えっ、何言ってるのこの子?

 速読がめちゃくちゃ得意だったりするの? 


「いや、小夜子……ちゃんと読んでよ」

「本には興味ないんですよー、ごめんなさい」

「読んでみたらきっと面白いって。な? 試してみようぜ」

「うーん……実はちょっと前に、ラノベを一冊読んでみたんですけど……」

「えっ、読んだのか!?」


 これは意外だった。

 俺は過去にも彼女にラノベを勧めたことがあるのだが、その時は興味がないの一点張りだったのだ。


「何ていう本なんだ?」

「先輩が読んでいたものが気になって……えっと、ゴスロリっぽい服を着たツインテールの子が表紙のやつです」

「ああ! あれか!」


 彼女が言っているのは、ラノベ入門者でも読みやすいシリーズだ。

 学園モノのコメディで、個性的なキャラクターたちの楽しい日常が描かれている。

 きっと彼女も面白いと思ってくれたに違いない。


「ネットで検索して、あらすじだけ読みました」

「それ読書って言わねーから!」


 俺は思わず椅子から転げ落ちそうになった。


「私、五分以上は文章を見ていられないんですよー」

「……国語のテストとかどうしてるんだよ」

「気合と根性です!」


 小夜子はぐっと握りこぶしを作ってみせた。

 全く自慢できることではないのだが、なぜかドヤ顔をしている。


 ライトノベルは小説の中でもかなり読みやすい部類なのだが、それでも彼女には耐えられなかったのか……。

 俺が頭を抱えていると小夜子が突然こう言った。


「私、ラノベは読みませんけど、ラノベのヒロインみたいになら、なってあげてもいいですよ?」


 ラノベのヒロインになる……?

 意味が分からず首をひねる俺の横で、小夜子はキラキラと目を輝かせていた。

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