3
「……どうですか、透留先輩」
柊太のチカラを借りて透留が真尋の動向を予知し始めてから、しばしの時が流れた。透留は目を閉じたまま、言葉を発しない。
「これ、ちゃんと読めるのかな透留……」
この沈黙に若干弱気になった理樹を、
「もうちょっと待てよ。せっかちなやつだな」
と頼がたしなめるが、頼も気が気ではないようで、若干貧乏ゆすりをしている。
すると、目を閉じていた透留がゆっくりと目を開ける。
「透留先輩……」
柊太が声をかけると、透留はゆっくりと口を開いた。
「……弦田くんに会いに行くみたい」
透留の言葉に、面々は一瞬ざわっ、とした。そして、透留は言葉を続ける。
「真尋くん、穂村の方に向かっててそこで弦田くんと待ち合わせるね」
「自分のテリトリーに持っていこうってことか、ますます気に食わねぇ」
頼は、眉間にしわを寄せてごつん、と拳で机を叩く。さらに、透の予知は続いた。
「そこから……たぶん、河原に向かう。穂村がある場所から歩いて10分くらいのところだね。けっこう広くてテニスコートとかもあるところだから、見通しは悪くない」
「河原……。何でわざわざそんなところに」
理樹が素朴な疑問を発すると柊太が、
「ここに来ずに弦田さんに会いに行くなんて、何か大事な用事があるとかなんですかね……」
と考え込む。そして柊太が透留の方を見ると、透留はあごに手を当てながら言った。
「用事、とかではないっぽいけど、真尋くんはたぶん弦田くんの誘いを断れないみたい……」
そこまで言った後、透留は何かを察したように目を見開いた。
「どうしたんですか、透留先輩!?」
柊太が透留に問いかけるのと同時に、理樹と頼も透留の方に体を寄せる。すると透留は、
「……真尋くんに、何かよくないことが起こる」
と言った。
「え、何それ、どんなこと?弦田と関係あるの!?」
理樹は、急いたように透留に問いかける。
「具体的に何、とまではわからないけど、弦田くんは関係してるみたい」
そう言って透留は、珍しく険しい表情に変わった。
「あの野郎、真尋に何するつもりなんだ!」
頼は完全に憤慨して机を蹴り飛ばした。そんな頼に、
「だから、部室の物に当たらないの」
と透留が落ち着いた声でいつもの指摘をする。
「透留お前、何でそんなに落ち着いてられんだよ!真尋が何か危ねぇんだろ!?」
激昂した頼が透留につかみかかろうとすると、
「わかってるよ!!」
とひときわ声が響いた。いつもはめったに声を荒らげることのない透留の声だ。
(そうだ、理樹先輩と頼先輩がこんなに動揺してるのに、透留先輩が落ち着いてられるわけがない)
そう思った柊太は、ガタッ、と派手な音を立てて椅子から立ち上がった。
「行きましょう!河原!透留先輩、ナビしてくれますよね!?」
動揺しているのは、柊太も同じだ。真尋に何かあったらと思うだけで、柊太の心臓は押しつぶされそうだった。
そんな柊太を見て、透留の目の光も鋭いものに変わった。
「任せて。柊太くん、サポートお願いね」
「はい!」
力強く柊太が言うと、
「もー世話の焼けるやつだな!何で火の中に飛び込んでいくんだよ真尋は!!」
と頼が頭をがしがし、とかいた。その言葉自体は呆れを示しているが、語気は真尋を案ずる色が滲んでいる。
「しょうがないじゃん、まさか中坊時代の友達が何かやらかすなんて真尋でもわかんないよ!」
熱くなっている頼を、理樹はたしなめた。
「透留先輩、真尋先輩に何か起こるまでの時間ってわかります?」
柊太が透留に聞くと、透留はしばし考え込んでから答える。
「……30分後」
「ここから穂村まで、そこから河原に行くまでは!?」
柊太がさらに問いかけると、透留の代わりに理樹が情報を追加する。
「穂村までが20分くらいだから……」
「ギリギリかよ!」
そう頼が舌打ちするのを聞かず、柊太は部室のドアをガラガラッ!と開けて飛び出していた。
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