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 その日を境に、真尋は「好きなことやる部」の部室に来なくなった。

 真尋のいない部室はパズルのピースが大きく欠けた感覚に陥るのはもちろん、面々は事態の違和感にただならぬ雰囲気を漂わせている。

「真尋、どうしたんだろ」

「ほんとに体調悪いとかじゃね?」

「連絡もなしに来ないとか、今までなかったのに……」

理樹も頼も透留も、心底不安そうな顔をして考え込む。そして柊太も、何か胸をかきむしられるような不安に襲われていた。

(真尋先輩……)

 そして、そんな日が3日続いた。面々には、不安だけではなく苛立ちも見え始める。

「今日さ、授業終わってから真尋のクラスにダッシュしたら、『もう帰った』って言われたんだよ!」

理樹が鼻息を荒くすると、

「だって、オレ今日廊下で真尋見たぞ。オレが声かけようと思ったら逃げちゃってさ。何かオレから逃げる理由あんのかよ?」

と頼も不服を漏らす。

「だよね。僕も、何度もメール送ってるんだけど返事来ないし、電話も出ない」

 そう透留が言うと、

「透留でもダメかー……」

と理樹がため息をついた。柊太は彼らのやりとりを聞きながら、右手の拳を左手で掴んでぎゅっと力を入れる。

「何か、あったんでしょうか……」

 柊太の呟きに、透留はゆっくりと息を吸ってこう切り出した。

「これは……」

 その後に続く透留の言葉を、面々は聞かなければならないとわかっていながら、聞きたくない心情にも駆られる。それでも、透留は次の言葉を発した。

「避けられてるね、僕たち」

「あー!それは聞きたくなかったー!」

「でも、どう考えてもそれが事実だー!」

 理樹と頼は、頭を抱えながら続けざまに絶叫する。

「理樹くん、頼くん。落ち着いて。答えが出たら、次はどうするかを冷静に考えよう」

 そう言う透留も、自分自身で答えを出しておきながら、その表情には苦悶が浮かんでいた。そんな面々を見ながら、どうしても腑に落ちないという風に柊太が言う。

「冷静にって言ったって……。真尋先輩がみなさんを避けてるなんて、そんなの信じられないですよ」

「信じられなくても、それが事実。学校に来てるのにさっさといなくなる、廊下で会ったのに逃げる、連絡つかない。この条件が揃ってるのに、他の答えが思いつく?」

 透留が冷静に状況を解説するが、その声はわずかに震えている。その透留の様子に、柊太は黙るしかなかった。

「だとしたら、何でオレたちが避けられてるのか、から考えるかぁ」

 頼がそう言って両腕を組んで考え込むと、

「何でっていっても、そんなんぼくたちにわかるわけなくない?だって、身に覚え全然ないでしょ」

と理樹も額に手を当てて机に肘をつく。

「そうだね。理由を考えても遠回りになるだけかもしれない。とにかく、真尋くんと話ができなきゃダメだろうね」

 透留は、原点に立ち返ってそう提案するが、現状では真尋と話をするための手段を講じるのは最たる難題であるといえる。

 完全に詰んだ空気に遠慮がちになりながらも、柊太は声を上げた。

「あの、透留先輩。真尋先輩がどこに行くかとか予知できないんですか?」

「そうしたいのはやまやまなんだけど、僕の予知は『真尋くんが校門の方に歩いていく』ぐらいしか届かなくて、1分前に気付いてももう追い付けないんだよ。それに、真尋くんが僕から離れれば離れるほど予知できなくなるし」

「そうなんだよなー……。オレたちのチカラってほんとビミョー……」

 頼はもどかしげに頭をガシガシ、とかいた。

「……ちょっと待って」

 そう声を上げたのは、理樹だ。

「柊ちゃんいるじゃん!」

 理樹が言った瞬間、頼と透留が目を見開いて一斉に柊太の方を見た。そして柊太も、

「あっ!」

と、目からウロコが落ちたように声のボリュームを上げる。

「何で今まで気付かなかったんですかね!?透留先輩、おれのチカラ使って真尋先輩の動き、予知してください!」

 柊太は、透留の方へ身を乗り出して懇願した。

「そっか……。僕たち、真尋くんがいない不安ばっかりに気を取られて、すぐそこにある可能性をすっかり忘れてたね」

 そういう透留の表情は、道に光を見つけたように明るくなる。それを見て理樹は「っしゃ!」と拳を握り、頼は透留の背中をバシバシと叩いた。

 透留は、まっすぐに柊太の方を見て、すっと手を差し出す。

「じゃ、早速やろうか。柊太くん」

「はい!よろしくお願いします!」

柊太はそう言って、透留の手を力強く握った。

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