4章

1

「あれ、真尋先輩は?」

 柊太が「好きなことやる部」の部室に顔を出すと、その光景に何か足りないことに真っ先に気付いた。いつも、入口の向かい側の誕生日席に鎮座している真尋がいない。

 あとの3人の顔を見ると、どこか浮かない雰囲気を滲ませていた。 

 その空気感に違和感を持った柊太は、

「まさか真尋先輩、体調が悪いとか……」

とにわかに慌てるが、それに理樹が答える。

「ああ、それは大丈夫だよ」

「じゃあ、用事とかなんですかね」

 とりあえず一安心した柊太がそう問いかけると、

「真尋くん、会うんだって」

と透留が含みを持たせて答えた。

「誰にですか?」

 柊太が普通にそう聞き返すと、理樹が眉をしかめながら言う。

「あの、弦田ってやつ」

「……そうなんですか?」

 柊太の心に、少しだけ小さなトゲのような痛みが走った。普段人を寄せ付けない真尋がこの部の人間以外と会うことに、なぜか不穏なものを感じたのだ。

(ま、まぁ中学では普通に友達だったんだろうし)

 そう柊太が思い直そうとすると、

「何かいけすかねぇ野郎だけどよ、オレたちが会うななんて言えねぇしな」

と、頼がどこか納得いかないといったように頬杖をつく。

 見たところ、先日唯人に会ったとき、揃ってあまりいい印象を持っていなかったようである。それは、唯人に会った後の真尋のただならぬ様子ももちろんのこと、唯人自身に何か釈然としないものを感じたためでもあるだろう。そしてそれは、柊太も例外ではなかった。

「それにしてもさ、真尋ってスマホ持ってないのに、連絡できたのかな」

 理樹のその言葉に、

「え、スマホを持ってない?」

と柊太が驚いて返す。すると透留が、

「人と必要以上の接触持たないからね、真尋くん。でもガラケーは持ってるから、電話かメールでのやりとりはできるかな」

と答えた。

「じゃあ、『好きなことやる部』でグループチャットとかあっても、真尋先輩入れないんですよね。不便じゃないですか?」

 柊太は素朴な疑問を投げかけると、それに答えたのは頼だ。

「真尋が入ってないグループチャットは作らないようにしようって決めたんだよ。何か嫌じゃん?」

「そ。真尋だけこう、とかっていうの、できるだけなくしたかったんだ」

 頼に続いて、理樹が付け加える。

「真尋くんは、僕たちの大事な仲間だから。置いてかないっていうのが僕たちの総意なんだよね」

 そして透留は、柔らかく笑ってそう言った。

(そっか、みんな真尋先輩が好きなんだな)

 柊太は、改めて「好きなことやる部」の面々にある種の確固たる絆が築かれていることを知る。

(チカラを持ってる人同士って、やっぱいいな。おれも、仲間に入れたら……)

 真尋先輩を支えられるだろうか、と柊太はとっさに思ったが、その言葉に自分で気付いて少し戸惑った。

(支える?おれが?真尋先輩を?)

 どの口がそんな大仰なことを言うんだ、と柊太はにわかに思い直そうとする。そして同時に、先日唯人が言った言葉が頭をよぎってしまった。

「真尋ちゃんを、守ってあげる」

 ふざけた話だ、と柊太は思った。

(守るとか支えるとか、ほんとおこがましいよな。そんなの、真尋先輩をなめてる。おれは何でそんな風に思っちゃったんだろう……)

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