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 透留が歩く道は、学校の前に横たわる道を渡ってすぐ細い路地になっている。しかも若干うねっている道のため、見通しは悪い。もし誰かに尾行されるとしたら、その人物にとっては好都合だろう。そのため、暗くなってから女性が歩くには危険とされている道でもあった。

(僕が男だとはいえ、もし誰かに襲いかかられたりしたらひとたまりもないなぁ……。頼くんの言うとおり、僕がもやしなのは否定できないし)

 透留は、この道を通るたびにそんなことを考えている。

 それはいつものことなのだが、今日の透留はいつにも増して誰かに襲われたときのことを頭にシミュレーションしていた。

 実は、透留は校門を出る前から、あることを漠然と予知していた。それは、「誰かにつけられる」というものだ。本当であれば、その時点で自分を尾行する人間を突き止めればいいのだが、あくまで尾行されるだけで危害が加わるものではないと読んだため、とりあえず様子を見るために普通に歩く振りをしている。

 透留の予知のチカラは、普段は不安定かつ微力であり、その人物が誰なのか、目的は何かなどは掴めず、さらに常に1分先が読めるとも限らない。しかし、断続的な予知により、確実に何者かが自分をマークしていることは把握できた。

(さて、どうしたもんか……)

 透留は、そんなことを考えながら左に曲がってさらに細い路地に入った。そして素早く、左前方にある住宅の隙間に入り込んで身を隠す。

 すると、ある人物が慌てて透留が来た道に現れた。そして、あたりをきょろきょろと見回している。どうやら、透留の姿を探しているようだ。

 透留の目的は、まず自分をマークしているのがどのような人物なのかを目視することだった。その人物の特徴がわかれば、年齢や服装などからある程度目的を絞り込むことも可能だ。

 透留が見たその人物は、自分と同じ高校生くらいの少年だ。グレーのシャツとジーンズというラフな格好で、荷物は持っていない。地味な格好だが、小ざっぱりしていた。

(同年代……。僕に危害は加えないよね。どっちかというと情報収集系か。でも特に写真撮るとかはしてないみたいだな)

 その少年は透留の姿が見えなくなったことを確認すると、チッと1つ舌打ちをする。そして少年は今来た道を引き返そうとするが、透留はその人物をそのままみすみす逃してしまうのも不本意だ、思った。

 透留は、彼の進む方向を予知しながら住宅の隙間をすり抜けていった。そこを抜けると、ちょうどあの少年が通ろうとしていると予知した道に出る。

 透留は、感覚を自分の予知に集中させ、少年が自分の目の前に来るタイミングを読んだ。そして、

(今だ)

とポイントを掴み、住宅の隙間を抜けてバッ、と路地に飛び出る。それは、少年と衝突するかというギリギリのタイミングだった。

「わぁっ!?」

 少年はそう声を上げて、体をのけぞらせる。

「ねぇ君、僕に何か用があったんじゃない?」

 驚く少年に、透はにっこりと笑いながら少年に問いかけた。

「な、何ですか急に!?あなた、誰ですか!?」

 そう言う少年の声は明らかに上ずっている。

「誰かなんて、君が一番よく知ってるんじゃないの?学校からずっとつけてきてたでしょ?」

 透留はさらに笑顔を少年に向けるが、その裏には逆に人を威嚇する圧がこもっている。

「つ、つけてなんか」

と少年が否定しようとすると、透留は高圧的な笑顔を崩すことなく少年の方に詰め寄った。

「ねぇ、何で僕をつけたの?」

 それでも少年は、

「つけてなんかないです!ほんとです!」

と言い張る。透留はため息をつくものの、少年の肩をガッ、と掴んで自分の方に引き寄せた。

「内緒で僕を尾行しようと思っても無駄だよ。君の動きは全部読めてるから」

 少し声のトーンを落として、少年の耳元でそう言い放った透留は、「もうこんなことしないでね」と言って少年を解放した。

 少年が急いで走り去る背中を見ながら、

「まぁ、『全部読めてる』はハッタリなんだけど」

と呟く。そして、口惜し気に両手の指をわきわきと動かした。

「僕に体力があれば、無理やりねじ伏せて死なない程度にいたぶりながら目的を吐かせたんだけどなぁ」

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