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「じゃーねー、また明日!」
「ばいばい、みんな」
「お疲れ様でした!」
校舎の中央の柱に備えられている時計は、5時を過ぎている。日も傾いて周囲がオレンジ色に染まる頃、「好きなことやる部」の面々は校門を出て、それぞれの帰路についた。
5人の帰る方向は、理樹と頼が校門を出て左側、透留は道を渡って直進、そして柊太と真尋は校門を出て右側だ。
それぞれの方向に分かれてから、理樹は頼に、
「あのさー、柊ちゃんのコントロールでぼくたちのチカラが増幅されるけど、それずっとやってたら柊ちゃんのサポートなしでもチカラ強くなったりしないかな?」
と、自分の手を見ながら言った。
「さぁなー。今んところ、柊太がいねぇとオレたちのチカラなんぞ微々たるもんだし。でもよ、もしチカラが強くなったからって、お前どうする?」
頼が理樹にそう問いかけると、理樹は少し考え込んだ。
「うーん……。たとえば、あの電柱を引っこ抜くとか?」
理樹はそう言って、自分たちの斜め前にある電柱を指さす。
「漫画かよ。それに、そんなことしたら電力会社に怒られんだろ」
もっともな理由で頼が理樹を諭すと、
「電力会社だけじゃなくて、停電続出で近所の人からクレーム来まくりかもね」
と、理樹はハハ、と笑った。
「でも、笑いごとじゃねぇぞ。オレたちのチカラってたまたま小さいだけで、これがもっと大きかったらそれぐらいのことわけねぇんだから」
頼は、自分の人差し指から小さな稲光を走らせ、放電されるのをまじまじと見ながら言った。
「オレだって、この発電能力がもっとすごかったら、電力会社に迷惑かけるレベルのことは簡単にできる」
「そうだよねー……。でもまぁ、ぼくたちにできるのはこれぐらいだよね」
理樹は、道に落ちていたアルミの空き缶の方に手をかざして、ふわりと浮かせる。
「おい、誰か見てたらどうすんだよ」
頼がそう言って理樹を止めようとするが、
「大丈夫だって、誰もいないよ。この缶、アルミだからバチバチしやすいんじゃない?」
と、理樹は手をゆるめるどころか頼をけしかける。
「オレのチカラってあんま使い道なくて、何かすっきりしねぇんだよなぁ」
頼はそう口を尖らせながらも、アルミ缶の方に手をかざして発電した。帯電した缶からはわずかに稲光が発せられている。
「いやー、でもアレぼくたちが触ったらビリビリくる系でしょ?それ、地味なダメージだよ」
「あ、お前今地味っつったな」
「あれ、言ったっけー?」
そんなことを言いながら、2人は道の空き缶を蹴りながら帰るような感覚で、バチバチと電気を放つアルミ缶を浮かせながら歩いていた。
浮いているアルミ缶に集中していた理樹には、完全に前方のガードレールが見えていない。その結果ガードレールにもろにガン、と激突し、太ももを強打してしまう。
「いった!」
そう理樹が声を上げるのと同時に、さっきまで理樹が操っていたアルミ缶が後ろの方にコロコロと転がっていってしまった。
「おい、何やってんだよ理樹」
頼が呆れたように言うと、
「ごめんごめん、うっかりしてたー」
と理樹はあっけらかんと笑う。
「理樹お前、気ぃつけろよ。しっかり者の顔してけっこうとぼけてんだから」
頼は呆れたようにそう言うが、そこには理樹を気遣う気持ちがきちんと込められている。その頼の少しだけ遠回しな優しさに、理樹も気が付いていないわけではなかった。
それでも、頼が気遣いを隠すように発する言葉にあえて乗っかってあげるのが、理樹の優しさでもある。
「頼だって、ただのデカブツに見せかけて小姑みたいじゃん」
「小姑けっこう。オレが見てねぇと、お前いろんなところにぶつかってすり傷だらけになるからな!」
そんな小競り合いをしながら、2人はどんどん歩いていく。
しかし2人は気付いていなかった。彼らより少し離れた背後の人影に帯電したアルミ缶が転がり、爪先に当たって軽く感電させ「わぁっ!?」と声を上げさせてしまったことを。
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