5

「何かさぁ、あの弦田ってやつ、ちょっとやな感じだったよねー」

 唯人が去った後、姿が見えなくなったことを確認してから理樹がそう口を開くと、頼も同意する。

「おう。何か、真尋のことなら何でも知ってる的な風吹かせてたよな」

「……弦田くんと、何かあった?真尋くん」

 透留が少し遠慮がちに真尋に問いかけるが、

「別に何もない。ただの同級生だ」

と、真尋は強固な姿勢を崩さない。

「何もないって……。真尋先輩、青ざめてるじゃないですか!」

 柊太は、真尋の変化に明らかに不穏なものを感じて、胸をざわつかせる。その不安な気持ちのままにそう叫ぶが、身を乗り出す柊太の肩を透留がやんわりと持って制した。

「透留先輩!」

 柊太は透留の手を振り払おうとするも、透留が黙って首を横に振るのを見て、その力を弱める。

「さっき柊太くんの肩を持っても特に予知は発動しなかったから、しばらくは何もないと思うけど……」

 透留がそう口を開くと、柊太たちはわずかに安堵する。そして、透留は言葉を続けた。

「僕たち、みんな真尋くんの味方だよ。真尋くんが苦しんでるのを、僕たちはほっとけない」

 透留のその言葉に、柊太も理樹も頼もうなずいた。真尋は、そんな彼らの顔を1人ずつ見る。そして、

「……すまん。本当に大丈夫だ」

と、少し細い声でそう言った。

 こうなると、頑固な真尋の口からこれ以上何も聞けることはない、と柊太以外の全員が知っている。彼らの諦めた様子に、柊太も何となく空気を察して黙り込んだ。

「じゃ、帰ろっか」

 空気を変えるように透留がそう言うと、

「そうだ!コンビニ寄ってかない?ぼく、喉乾いちゃった!」

と、理樹がひときわ明るい声を発する。それに乗っかるように、頼が提案した。

「じゃ、みんなでジャンケンしようぜ!負けたやつのおごりな!」

「望むところだ」

 頼の提案に真尋が乗っかり、右手に作った拳を覆うように左手をかぶせ、強く握った。

「よーし、じゃあ行くよ~」

 透留の掛け声の後、全員で「ジャンケンポン!」の声とともに勢いよく手を出した。見ると、柊太はチョキ、それ以外の全員がグーだ。

「おっ、早いとこ勝負ついたな」

 頼がそう言うのと同時に、

「はい、柊ちゃんの負けー。ぼく、オレンジの炭酸ね!」

と、早速理樹が注文をつける。すると真尋と頼もそれに続いた。

「ブラックコーヒー」

「おれ、野菜ジュース!」

「えっとー……わ、わかりました。透留先輩は?」

 柊太が慌ててそれぞれの注文を覚えながら透留の希望を聞くと、

「あ、僕は荷物持ち係で柊太くんについてくよ~」

と、柊太の手伝いを申し出てくれる。

「ありがとうございます!透留先輩の分は中に入ってからで。じゃ、行ってきます」

 柊太はそう言って、透留と一緒に近くに見えてきたコンビニの方に先に歩いていった。

 コンビニに入ると、一番奥にドリンクコーナーがあるのが見える。柊太は、そこに向かって一直線に歩こうとしたが、

「柊太くん、ちょっと待って」

と透留が呼び止めた。

「何ですか?」

 柊太が振り返ってそう問いかけると、透留は柊太に近づきながら、

「柊太くんに、ちょっと話しときたいことがあるんだ」

と言う。柊太は、その透留の言葉に首を傾げながらまばたきをした。

 透留は、ドリンクコーナーの方に行くふりをして店の外から自分たちの姿が見えないところまで行き、立ち止まる。

「ほんとは真尋が話したがらないんだけど、君には知っておいてほしくて」

「えっ……。真尋先輩のことですか?それ、おれが聞いて大丈夫なんですかね……」

 不安げに柊太が言うと、透留は自分の唇の先に人差し指を当てて、

「柊太くんが内緒にしてくれたら大丈夫」

とにこやかな笑顔を向ける。

 その笑顔は、単なる人の好さとは違い、暗に口止めを強要する圧を含んでいた。

「な、内緒に……。わかりました」

 柊太のその言葉を待った後、透留はゆっくりと口を開いた。透留の話はこうだ。

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