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「でも、理樹くんと頼くんのチカラをコントロールできるとなったら、僕もぜひ試してみたくなるなぁ」

 そう言って透留は、若干物欲しそうに柊太の方を見る。

「そうですね。結局、透留先輩と真尋先輩には、どんな影響があるのかわかってませんし」

 柊太が透留の言葉にうなずくと、真尋はやはり、

「俺には死んでも試すな」

と冷たい言葉を投げる。

「わ、わかってますよ……」

 柊太は真尋の言葉に戦々恐々としながら、透留の方に向き直って、

「ちょっとやってみますか?」

と自分の手を透留に差し出した。

「いい?もし、柊太くんに変化が起きたらすぐ言ってね」

 透留は、差し出された柊太の手を握る。

「……!」

するとすぐに、透留の目は何かに気付いたように見開かれた。

「え、何?何かあった?透留」

 理樹が心配そうに透留の顔を覗き込むと、透留はゆっくりと口を開いた。

「……誰か来る。今、50m先くらい。僕たちと同い年だけど違う学校の制服を着てる。それと、真尋くんに用がある人だね。相手は真尋くんがここにいることを知らないみたいだけど」

 透留は、それらの情報をすらすらと述べていった。その様子に、真尋・理樹・頼はどよめいて口々に言葉を発する。

「お前、そんな細かいことまで見えるのか」

「今まで透留、『よくわかんないけど1分後に何かあるよー』ぐらいの漠然とした情報しか読めなかったのに!」

「やっぱり、柊太のチカラで予知の精度が上がってるんだ」

「僕が、こんなことまで読めるなんて……」

 このチカラの変化に、透留自身が戸惑いと驚きを隠せないようだ。そして、すぐに柊太に声をかける。

「柊太くん、何かおかしいことない?」

 透留にそう問われた柊太は、

「いえ、今のとこは何も」

と首を横に振った。

「じゃあ、ESP系のチカラなら柊太に影響ないってことか」

 そう頼が言うと柊太は、

「ESP系?」

と聞き返した。その柊太の言葉を受け、理樹は説明を加える。

「ESP系は超感覚的知覚、つまり何らかの感覚が突出するチカラ。透留のプレコグニションと真尋のテレパシーはこっち側だね。それに対して、頼のエレキネシスやほくのサイコキネシスみたいな動きのあるチカラは念力、PK系」

「オレたちPK系のチカラは物とかに働きかけるけど、ESP系は精神的にダメージが加わることもある」

 理樹の説明に頼が補足すると、柊太は「なるほど……」と納得した。その後で、柊太ははっと気付く。

「じゃあ透留先輩、チカラが増幅したらダメージが……!?」

 柊太が慌てて透留の方を見ると、

「今のところは大丈夫だよ。ありがと柊太くん」

と透留は柔らかく微笑んだ。その言葉に、柊太はほっと胸を撫で下ろす。すると真尋が、ぼそりとこぼした。

「俺に用事……誰だいったい」

 さっきの透留の予知が一番気になるのは、他でもない真尋だろう。

「とりあえずさ、何か用事があるんならここで待ってればいいんじゃない?」

 理樹がそう言った後、面々はしばらく様子を見ることにする。するとほどなくして、公園の入口あたりから誰かの声が飛んできた。

「……真尋ちゃん?」

 こいつだ。そう思った面々が声の方向に向くと、そこにはブレザーを着た少年が立っていて、驚いたように真尋の方を見ていた。その彼を見た真尋は、わずかに息を飲む。

「唯人(ゆいと)……」

 真尋がそう彼のことを呼ぶと、唯人は顔をほころばせて真尋の方に駆け寄った。

「久しぶりじゃん!こんなところで会うと思わなかった!」

 そう言って真尋との再会を喜ぶ唯人に、わずかに透留の顔が曇る。透留は、今は柊太と手を離しているものの、少し先を予知して何か不穏な空気を読んだのだ。そして透留は真尋に、

「大丈夫?」

と小声で声をかけた。それを受けて真尋は少し低いトーンで答える。

「……何がだ」

 そのやりとりが気になった柊太は、透留に小声で問いかけた。

「どういうことですか?」

すると透留は、柊太の問いにこう答えた。

「うん……。ちょっとだけ、あんまりよくないことが起こりそうな感じがしたから」

 今は、透留の予知のチカラは通常の微力なものに戻っている。とはいえ、予知なのだから外れるものでもないだろう。柊太の心は、これから何が起こるのかと何となくざわついていた。

 そんな柊太をよそに、唯人は嬉しそうな声で真尋に話しかける。

「高校が別になってから、全然会ってなかったもんね。真尋ちゃん、どこの学校に行ったのか教えてくれなかったから。その制服、もしかして成沢?」

「……ああ。唯人は、穂村で元気にやっているのか?」

「うん。2年になって生徒会役員やってるよ」

 その真尋と唯人のやりとりに、他の面々は若干ざわついた。

「穂村って、あの穂村学園?」

「そういえばあれ、穂村の制服だね」

「マジか、穂村なんて超難関じゃん!」

「穂村の生徒会役員……」

 穂村学園といえば、このあたりに限らず全国でもトップクラスの学力を誇る名門校で、有名国立大学への合格者を多数輩出していることでも知られている。その学園の生徒会役員ともなれば、相当優秀なのだろう。

 声を小さくして口々に言葉を発する柊太たちに、唯人はちらりと目を向けて、真尋に言った。

「友達?」

「まぁ、そんなようなもんだ」

 真尋が答えると、対外的な面子を保つのに長けた透留が、「初めまして、皆月です」とにっこり挨拶をする。それに続いて、

「蕪木でっす」

「友野だ」

「多賀谷といいます……」

と、唯人が背負う「穂村」のネームバリューに若干ビビりながらそれぞれが自己紹介する。すると透留は笑顔を崩さず、

「真尋、こちらは?」

と、唯人を手で指して言った。

「ああ……。中学の同級生の、弦田(げんだ) 唯人」

 真尋が硬い表情で唯人を紹介すると、唯人は軽く会釈をする。

「どうも。真尋とは中2からの付き合いです。……真尋にも、こんな友達ができたんだ。ところでみんな、真尋のチカラのことは知ってるの?」

 その唯人の言葉に、真尋は表情をさらにぴくっ、とこわばらせた。

 そして、自分たち以外に真尋のチカラのことを知っている人物がいたことに、一同は驚く。しかし、言葉は発しなかった。自分たちが真尋のチカラを知っていると言えば、自分たちのことにも説明が及ぶ気がして、話が長くなりそうだと思ったためだ。

そんな彼らを尻目に、唯人は続ける。

「あ、知らなかった?ならごめん。余計なこと言っちゃったね。じゃ、真尋ちゃんの秘密を知ってるのは、この中でボクだけだね」

 そう言って唯人は、真尋の肩に手を置いた。

「苦しくなったら、いつでもボクのところに来て。……ううん」

 唯人は、いったん自分が言った言葉を否定し、その後、

「いつでも、ボクが真尋ちゃんのところに駆けつける。それで……真尋ちゃんを、守ってあげる」

と真尋の耳元で言葉を続けた。

(ま、守る……?真尋先輩を?)

 柊太は、その唯人の言葉に若干胸がもやっとする感覚を覚えた。

「じゃ、ボクは帰るね。真尋ちゃん……また」

 そう言って唯人は、笑顔で手を振ってその場を去っていった。唯人の姿が見えなくなったところで、一同は真尋の方を見る。すると、真尋の顔は少し血の気をなくしているように見えた。

「ま、真尋先輩、大丈夫ですか?」

 柊太がたまらず声をかけると、真尋は片手の人差し指と中指で眼鏡の両端を持ち、

「……俺は普通だ」

と強めに返す。

しかし、柊太や他の面々の目にはそれが明らかに虚勢に見えた。

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