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「柊太、とりあえず深呼吸して……。それから、まずオレたちの力が自分に入り込まないような意識をしてみろ」
頼が静かに柊太にアドバイスを送ると、柊太はそれに従って大きく深呼吸をしてみた。
「頼先輩のチカラは、おれに入ってこない……。そしてその発電力は、あの鉄棒を帯電させる……。こ、こうですかね」
何がなんだかわからないながらも、とりあえず柊太は頼のチカラをコントロールできたときのイメージをしてみる。
「よし……じゃあいくぞ、柊太」
「はい……」
頼の声かけに柊太は応じる。そして頼が差し出した手を、柊太は恐る恐る握った。
「うりゃ!」
頼は、柊太の手を握っているのと反対の手を近くの鉄棒にかざす。すると、頼の手からビビビッ、と一筋の閃光が太く発せられ、鉄棒に直撃した。そして鉄棒は、バチバチ……と強い稲光を走らせている。
「おぉー!これ、やったんじゃない?」
理樹が目を輝かせると、頼は柊太の方に向き直った。
「どうだ柊太?まだビリッてきたか?」
柊太は、自分が以前想像していたような強い超能力を初めて目の当たりにして、あんぐりと口を開けていたが、頼の言葉にはっと我に返った。
「……ちょっときましたけど……さっきよりだいぶマシ、です」
「ほんとか柊太!?」
「はい……」
そして、頼に触れても自分の体に今までのようなビリビリくる衝撃がこなかったことに、一番驚いているのは柊太だ。柊太は、自分が念じただけで頼のチカラのコントロールに成功したことがにわかには信じられず、さっきまで頼の手を握っていた自分の手をじっと眺めた。
「えー、すっごいじゃん!頼のチカラもいつもより確実に強くなってたし!ねぇねぇ、今度はぼく!」
そう言って理樹は、急くように地団太を踏み、柊太に誘いをかける。
「わかりました」
柊太は、さっきと同じように理樹のチカラをコントロールできたときをイメージする。
「理樹先輩のチカラはおれに働かずに、あのシーソーを動かすことができる……」
そして理樹は柊太に手を差し出し、その手を柊太が握る。
「いっくよー柊ちゃん!」
そう言って理樹は、頼がさっきやっていたようにシーソーに向かって手をかざした。
すると、柊太の体はわずかに足が地面から離れた程度で、シーソーはギィ……と音を立てて逆方向にバタン!と倒れる。
「やった……やったじゃん理樹!柊太!」
「これ、ほんとにおれが……。信じられない」
柊太は、まだ自分が彼らのチカラをコントロールしたことに半信半疑で、喜び合う理樹と頼を尻目に呆然としていた。
その様子を遠目で見ていた透留と真尋は、目を大きく見開いている。
「嘘……。頼くんと理樹くんのチカラがあんなに大きく……」
「本当に、増幅のコントロールができたというのか……」
呆然としている2人のもとに、
「真尋ー!透留ー!!すっごいよー!できちゃったよー!!」
と、理樹が手を上げながら駆け寄ってきて、すぐ後ろには頼と柊太が続く。
「見てたよー、どうやって成功したの?」
3人を笑顔で迎えた透留がそう問いかけると、頼が興奮気味に答える。
「柊太だよ!柊太がコントロールしてくれたんだ!」
「えぇっ、柊太くんが?」
透留が意外そうに驚く一方、真尋はさっきまで少し開いていた口をきゅっと閉じた。その後、
「多賀谷にそんなチカラがあるのか……。ますます油断ならない」
と言って、柊太を横目で見る。
「そ、そんな!人を危険人物みたいに」
柊太が真尋の言葉に慌ててそう言っても、真尋の視線はさらに鋭さを増した。
「こいつがいると、俺たちのチカラが危険な範囲まで膨らむ可能性があるんだろう?しかも、それをコントろールできるなんて……。それが危険でなくて何だというんだ」
そう言い放つ真尋を、透留がたしなめる。
「真尋、そんなこと言ったら僕たちのことを白い目で見てた人たちと同じになっちゃうよ」
その透留の言葉に、真尋ははっとしたように表情を変えた。そして、少し悔しそうに唇を噛みしめる。
柊太は、いつも厳格で芯の強いイメージの真尋が、一瞬だけ揺らいだ様子を見せたことに驚いた。そしてそこに、真尋の隠れた気持ちを少しだけくみ取る。
(もしかすると、理不尽な扱いを受けることに一番敏感なのは、真尋先輩なのかもしれないな……)
すると柊太は、意を決したようにすぅ、と息を吸う。そして、ひときわ大きな声を真尋にかける。
「大丈夫です!」
「大丈夫……?」
柊太のその言葉に真尋が疑惑の色を滲ませても、柊太は言葉を続けた。
「先輩たちを危険な目には遭わせません。おれ、もっと上手にコントロールできるように、頑張りますから!」
面倒事が嫌いで平穏に日々を過ごしたいと基本的に思っている柊太は、今までこんなに前向きに熱くなったことはない。そのため、言い切った後に柊太は、なぜ自分がこんな気持ちになっているんだろうと我ながら不思議に思った。
柊太の言葉に、真尋は伏せていた顔をゆっくりと上げた。そして柊太と目が合うと、柊太は真尋の目をまっすぐ見てニカッ、と笑顔を向ける。すると、真尋の目は見開かれて柊太を映し、少しだけ揺れた。
しかし真尋は、すぐに柊太から目を背けてしまう。
「……そんな自信、どこから来るんだ」
真尋が柊太と目を合わせないままそう言うと、柊太は意志を示すように強い表情になり、
「わかりません。わかんないですけど、でもそうします!」
と拳を握った。
「ふふ、頼もしいじゃないか。柊太くんなら大丈夫だよ」
透留がそう言うと、理樹と頼もそれに続く。
「柊ちゃん、ぼくたちも自分のチカラくらいちゃんと安全に使えるように頑張るよ!」
「おうよ、オレたちのチカラなんだから柊太にばっかり背負わせてるわけにいかねぇしな!」
そんな言葉たちに、彼らのチカラに関わるのは面倒だと思っていた柊太の気持ちは、少しだけ前向きになる。「好きなことやる部」の面々に、柊太だけは何かしら影響を与えることができる。この事実は、柊太に何かしらの使命感のようなものをもたらしたのかもしれない。
それに、さっきわずかに表情を揺らせた真尋を見て、たとえハッタリだとしても何とかして真尋を安心させたい、と思ったことも事実だ。自分が危険人物に見られることよりも、真尋に不安な思いをさせたくないという気持ちの方が、柊太の中で大きかった。
なぜ真尋に対してそんな気持ちを持ったのか、柊太にはまだよくわかっていない。自分でも消化しきれていない感情を抱えながら柊太が真尋を見つめると、真尋は眼鏡のつるをくい、と上げて、
「……せいぜい頑張れ」
といつもの厳格な表情に戻って言い放った。
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